オランダワーキングホリデー情報局

オランダでのワーキングホリデー(2021-2022)の情報基地。毎年200人行っているはずなのに全員地球からログアウトしたのか、情報が少ないので立ち上げました。

【金の斧ですか、銀の斧ですか】

オランダに住んでいる人(31歳・♀)が送る限りなく異世界オランダ日記。

 

 

【池の女神は言いました】

 

オランダの片隅にて、一輪挿しを部屋に置いたら「一本だけって寂しいね」と言われて驚いた私がお送りする。

 

先日、配達中に腹が痛くなった。

 

その日は出勤前から「今日は体調が良くないな」と思っていたが、やはりそのまま体調は下降を続けた。

 

仏頂面に、無愛想を加速させた私は歩く大仏だっただろう。

 

 

その日、初めて行くレストランだった。

 

新店舗らしくガラスに曇りはなく、店内はピカピカだった。

 

ダンキンドーナツ

 

その日は夕方のシフトだった。

 

ディナータイムにドーナツを頼む輩がいた。

 

個数からしてパーティ用なのだろう。

 

その配送先を三度見したが、住所に誤りはなさそうだった。

 

”サブウェイXX店”

 

いつも商品を受け取る場所として寄るサブウェイに、配達で訪れることになった。

 

半信半疑、いや全疑で向かった。

 

全疑は当たっていた。

 

店は閉まっていたのだ。

 

しかし、メモ書きが加えられていた。

 

”着いたら電話下さい”

 

ということはバックヤードに誰か残っているのだろう。

 

私はディスパッチャー(時間帯責任者)に電話を催促した。

 

我々はお客さまの住所と名前だけ知らされているので、電話は出来ない規則だ。

 

ディスパッチャーからの連絡を待っていると、後ろからエンジン音が近づいてきた。

 

「それ俺の!」

 

ヒゲ面で赤いキャップを被った兄ちゃんが現れた。

 

お客さまというより、兄ちゃんという呼び名がふさわしい雰囲気だった。

 

私は一応確認した。

 

ダンキン頼みましたか?」

 

「そうそう!今から店で食べるんだ」

 

店内は閉店しているのでもちろん真っ暗だ。

 

慣れた手つきで鍵を開けるので、興味本位で聞いた。

 

「マネージャーさんなんですか?」

 

「うん!これ俺の店!あ、お腹空いてる?クッキー食べる?」

 

”あ、”からの言葉が全然繋がっていなかったのが気になったが、

ここで「いいえ、お腹が空いていません」というバカがどこにいるだろうか。

 

そんな定型文、人生の教科書には載っていなかったはずだ。

 

人生の教科書(卑しい人間編)には”何かくれそうな雰囲気の人がいたら極力下手に出る”と記載があったはずだ。

 

「お腹空いています!」

 

腹の痛みなど忘れてめちゃくちゃでかい声で返事をした。

 

「どのクッキーがいい?」

 

池の女神様は落としたのは金の斧か銀の斧か聞いてきた。

 

「何でもいいです!」

 

卑しい木こりは女神様に任せることにした。

 

実際、サブウェイでクッキーを頼んだことがなかったので種類に心当たりがなかった。

 

池の女神様は「3種類あるから」と、3つもクッキーを包んでくれた。

 

女神様が過ぎる。

 

ヒゲ面の兄ちゃんに後光が差して見えた。

 

間違いなく私は、サブウェイの金の斧を手に入れた。

 

すぐさま近くのベンチで金の斧(マカダミアナッツのクッキー)を頬張ると、腹の痛みがどこかに消えた。

 

親切な人との出会いと、甘いものはいつだって元気をくれると感じた夜だった。