オランダに住んでいる人(30歳・♀)が送る限りなく異世界オランダ日記。
【挙動不審のジェントルマン】
オランダの政治の中心地で夜のロックダウンにぶーぶー言いながら平穏に過ごしている。
本日、スーパーマンに近いジェントルマンに遭遇した。
私は電車を降り、駅のトイレに向かうところだった。
告白しよう。
私は電車の中で用が足せない。
これは新幹線でもバスでもそうで、何時間乗っていようが車内で下半身露出することが落ち着かないからだ。
あと車内のトイレって換気できていないし心なしかきちゃない。
オランダでは車内のトイレは無料だが、駅のトイレは主要駅だと0.7ユーロ、それ以外だと0.5ユーロとお金がかかる。
よく電車に乗るので一か月1.4ユーロは払っているだろう。
それが12か月続くとなるとトイレのサブスクに入ったほうがいい金額になりそうだが、それでも私は電車で用を足せない。
颯爽とトイレに向かうと、その駅はタッチ式カードだけ使えるトイレだった。
コインやカードを入れてバーを押して開けるトイレではなく、バリアフリーの個室トイレだ。
このタイプのトイレはバーをくぐれないので小銭をちょろまかせない。
私はタッチ式を持っているが、残高があまりないので使いたくなかったので迷った。
いや、ここは初めてタッチ式で払ってみよう。
セントをケチって膀胱炎になりたくない。
意を決しトイレの開錠ボタンを押してタッチしてみた。
反応しない。
もう一度やる。
反応しない。
今度は開錠を押しながらタッチする。
反応がない。
腹が立つ。
後ろから鼻歌が聞こえたのはそのときだった。
蛍光色の作業着を着た男性が「ちょっとのいて」とジェスチャーしてきた。
助かった、きっと地元の人だ。
開け方を教わろう。
彼は私と同じようにボタンを押しスマホをかざしていた。
そうか私もスマホにカードのアプリを入れればいいのか、と閃いた。
家に帰ったらやろうと思い先にブログを書いてしまっているが。
ボタンを押しながらかざしたところで彼の挑戦が終了した。
開かずのトイレだった。
「こっちでやってみよう」
そう言い彼はくるっと反対側を向いた。
反対側にはもう一つトイレがあったのだ。
そちらのトイレで押したり押さなかったりすると、なんとかトイレが開いた。
尿意を催している者には随分長い戦いだった。
彼はトイレを開けると「どうぞ」とジェスチャーした。
「なんで?あなたが払ったから先に入りなよ」
「いやでも君が先に並んでたから」
「私お金払ってないよ」
「いいの」
なんだかしっくりこないまま中に入り用を足した。
トイレから出ると、彼は少し離れた場所でスマホを片手に待っていた。
「開いたよ〜」
手を振るとにっこりこちらに向かってきた。もちろんもうお金を払いたくないので扉は開けっぱなしにしている。
ありがとう、と伝えると彼は穏やかな笑みを浮かべながらトイレに消えた。
今までトイレを奢ってもらったことがなかったのだが、感想はこうだ。
ご飯を奢ってもらうより救世主(メシア)っぽい。
その上近くでなく気を遣って遠くで待っていてくれた。
ありがとう、北ホラントの作業着のメシア。