オランダに住んでいる人(31歳・♀)が送る限りなく異世界オランダ日記。
【人の家を廃墟呼ばわりすな】
オランダの住宅街にて、風邪をひいた。
先日、私は仕事のフードデリバリーにて、一軒における配達距離の最長記録を更新した。
片道5.6キロ。
往復にして10キロ以上。
電動自転車だと片道15分で着けるのだが、大抵の配達先が3〜5分なので、大ハズレと言っていい配達先だった。
ベンチも何もない原っぱを通過し、初めて目にする教会を通過し、やっとのことで着いた一軒家。
庭には植物が生い茂っており、青々としている。
私はお隣さんに入りそうになり、「そうか、この鬱蒼としている方が配達先か」と慌てて入り口を探した。
探さないと見つからないほど、雑草や植物が伸び放題だった。
玄関先には庭用なのか、スリッパが散乱している。
インターホンを押した。
無音。
続けて2回押した。
6組ほどあるだろうか、スリッパの中にスニーカーは紛れていなかった。
もしこのご家庭が玄関先で靴からスリッパに履き替えるご家庭なら、今家には誰もいないということだ。
ドアにはメモが貼ってあり、走り書きで何か書かれている。
私には「家に誰もいなかったら」という文言だけ読めた。
後の文字は汚くて何かよく分からないので、時間帯責任者であるディスパッチャーにグループチャットで尋ねた。
何かのヒントになりそうな、走り書きのメモと共に。
するとディスパッチャーはすぐさま返事をくれた。
「それは家に人がいなかったら配達物は庭の納屋に入れといてって書いてあるね」
初めての体験だ。
それはAmazonから荷物が来た時に行う対処なのでは?と思ったが、私は彼に従い庭の納屋に向かった。
といっても、玄関から3歩で着く。
納屋に扉はなく、オートバイが停めてあった。
そのバイクの荷物入れがまるで”こちらにどうぞ”と言わんばかりにパッカーンと開いていたので、そこに置いた。
えっちらおっちら街中まで戻っていつもの木陰で休憩していると、近くにいたらしい配達のリーダーが声をかけてきた。
「ディスパッチャーからグループチャットに連絡が来てるよ」
私は、何かしたっけと先ほどの変な配達のことはすっかり忘れてアプリを開いた。
「りんちゃん、先ほどのお客さんから配達完了になってるけどまだ届いていないって連絡があったよ。どこに置いたの?」
お前が納屋に置けって言ったんだろうがい!
このニュアンスで書き込みたかったが、英語の関西弁を知らないので私は丁寧に返信した。
「納屋のバイクの荷台の上です」
それからディスパッチャーからの応答はなかったので、無事にフードを探せたのだろう。
あの廃墟のような配達先はきっと玄関のメモに”フードデリバリーを除く”と注釈を書き加えているに違いない。