オランダに住んでいる人(31歳・♀)が送る限りなく異世界オランダ日記。
【私このパイ嫌いなのよね】
オランダの片隅で、6月だがまだ余裕でヒートテックを着て過ごしている。
理由は仕事であるフードデリバリー中にOPテーマである”ルージュの伝言”がサブスクリプションから流れてきたからだ。
そういえば私の仕事はキキと似ているな、と感じたので、実際に似ているのか改めて確認したくなったのだ。
久しぶりに観ると、覚えているのは印象的なシーンだけで、人間こんなにも忘れているものかと驚いた。
まず、キキがあの港町に滞在するのが1年間限定であること。
ワーキングホリデーで私がオランダに滞在できる期間と全く同じだった。
次に、劇中で「私って飛ぶしか能がないじゃない」とジジに話しかけるシーンがあった。
「私ってオランダ語がビジネスレベルではないから、運ぶしか能がないじゃない」
そんな理由もあり始めた配達の仕事なので、遠からずだった。
最後に、「これぞ魔女宅!」という出来事が本日発生した。
今日はオランダらしい晴れたり曇ったり豪雨になる風の強い日だった。
「突風が来る」と教えてくれる鳥も、それを通訳してくれる黒猫も周りにいなかった。
なので私はビル風をもろに受けてよろめきながら運河沿いを走っていた。
配達先は、オシャレではあるが配達員にとっては若干ムッとする家番号の小さく書かれた一軒家だった。
レインハットに防水パーカーを着ていたものの、顔は雨でずぶ濡れだった。
その一件が最後の配達だったので、ジーンズも水で重くなっていた。
かじかんだ手でインターホンを押すと、中で話でもしているのかのっそりと女性が出てきた。
話の途中なのか、顔は家の中に向いたままだ。
私は取手まで濡れたドーナツを渡した。
彼女は人差し指と親指を使い、まるで汚いものでも持つかのように紙袋を受け取った。
たったそれだけの動作で、イラッとした。
まるでおばあちゃんが手作りしてくれたニシンのパイを「私これ嫌いなのよね」と受け取るあのおしゃまではないか。
トンボの友達のおしゃまは、子供だから愚直なのは分かるが、玄関の散らかり具合からしてお子さんがいそうな女性だった。
私には黒猫の相棒がいないので、黒猫の分まで「ちぇ!ちぇ!気取ってやんの」とひとりごちて家路に着いた。
今日ほど配達を辞めたいと思ったことはないが、「これも魔女宅に似ているな」と気づいた途端にテンションが上がったので、まだまだ”魔女宅探し”は続ける予定だ。