オランダに住んでいる人(30歳・♀)が送る限りなく異世界オランダ日記。
【食べる前から牛】
オランダの都市部にて、左膝に打ち身が3箇所出来たが、自然に治ると信じてやまない日々を送っている。
先日、夕飯にバーガーキングに行った。
遊びに行った帰り、高速を運転する友人が「さっきからバーガーキングの看板ばかり目に入るから食べたくなってきた!」
という悲鳴に近い叫びを発したので「よし行こう!」と大きな声で返事をした。
私は夕飯にファーストフードを食べると罪悪感に苛まれる。
楽して夕飯にありつくことではない、カロリーだ。
カロリーの魔人が
「姐さん、おいくつでっか?」
「もうそろそろ潮時でっせ」
「気づいた時には遅いで。取れない脂肪になってまっせ」
嫌な関西弁で囁いてくるのだ。
心の中の魔人の声を無視して、今日だけはとバーガーキングの暖簾をくぐった。
オランダのバーガーキングは大体、セルフで注文出来る。
大きな液晶の前に立った友人は慣れた手つきで、リブサンドのキングサイズ(最大サイズ)に、ポテトのキングサイズ、そしてスプライト(無論最大サイズ)をつけた。
そこから更に画面をスクロールしたかと思うと、9ピースのチーズナゲットを追加していた。
彼は大食漢だと知っていたが、余程お腹が空いているらしい。
これは早くテイクアウトせねばと私はチキンバーガーにポテト小、アイスティー小をつけた。
店内では3名ほど先客がいた。
皆一様に「出来上がり番号」の画面が切り替わるのを注視している。
私たちより後に注文した2名の品物、バーガー1つ、ナゲット1つが先に手渡されていくのを見るともなく眺めていた。
注文が多過ぎて先を越されたようだ。
そんな経験がなかった私は、「あれ忘れられてる?」と思ったが間も無く無事にオーダーが出てきた。
すると車内では「持ち帰ろう」と言っていた彼が無言で店内を闊歩していった。
ほう、ここで食べるのか。
私は3家族の子連れがはしゃぐ店内に些か居心地の悪さを感じながら腰掛けた。
間も無く双子のように見た目がそっくりな男性二人組がやってきた。
家族連れ以外が来たことで、少し落ち着けるようになった。
ポテト小が相変わらず小でない。
ヨーロッパのサイズ感にしっくりこないまま一年が過ぎそうだと考えていると、
目の前の友人はリブサンド、ポテト、ナゲットを全て平らげていた。
爆速だった。
この時点で私のポテトは半分以上残っていた。
この間私の食べたものは、チキンバーガーだけだ。
それでも少し休憩したい。
「食べる?」
差し出したポテトを彼は制止した。
「まだ入るからチーズバーガー買ってくる」
まじっすか。
颯爽と席を立ち、入り口に戻っていく背中を見ながら、油くさいポテトを咀嚼した。
向かいの席にはいつの間にか40代くらいの男性が一人で腰掛けていた。
大きめのヘッドホンで音楽でも聞いているのだろうか。
うん、彼は"普通"の量を召し上がっている。
さっきより少ない待ち時間で友人は戻ってきた。
チーズバーガーとアイスクリームを手にして。
「アイスクリーム??」
「本当はあとチーズバーガー5個くらい入りそうだったけど、アイスにした」
胃が四つあるのか。
しゃべる牛なのか。
同じホモサピエンスとは思えない。
呆気に取られていると、友人は私がポテトを食べ終わる前にチーズバーガーを瞬く間に胃に放り込んでいた。
「りんちゃんはゆっくり食べなよ」
私はゆっくり食べているのではない、お主が早すぎるのだ!
言い返したかったが、口がポテトでいっぱいでもさもさしただけだった。
今度ドライブするときは、彼に何かすぐ腹にたまりそうなものを差し入れしよう。