オランダに住んでいる人(31歳・♀)が送る限りなく異世界オランダ日記。
【野郎だらけのリビング】
オランダの住宅街にて、マンションの一階に鳥の死骸を見つけて朝からうんざりした。
そろそろ書かねばと思い日が経ってしまったが、先月から私はオランダで知り合った友人と共に暮らしている。
デンハーグのシェアハウスは、無事に次の住人であるお喋り台湾人に引き渡した。
シェアハウスより、リビングもキッチンも広く快適になったが、個室はない。
友人をよく知る友人曰く「彼はオタク」
友達になってみるとそうでもないな、むしろ私がワンピースに狂っていた頃の方がオタク度が濃かったなと思うほどだった。
大学生の頃、私は初めてワンピースを読んだ。
友人がコミックスをはるばる豊田市から日進市に運んできて、クラス中が回し読みしていたので私もその波に乗ったのだ。
ちょうどワンピースは、エースが亡くなった一番面白いと言われている時期だった。
その後も「ドレスローザが一番面白い」「ワノ国が一番面白い」と”一番面白い説”を更新し続けているので、あくまでも当時の一番面白い、だ。
まんまとハマった。
そもそも、漫画を自分で買って読む習慣がなかった私にいきなり王道のメガヒットコミックだ。
それからは吸い寄せられるようにまんだらけやソフマップ行き、フィギュアを収集する日々だった。
箪笥の上はいつからかフィギュア置き場と化し、ワンピースを貸してくれた彼女は
「ちょっと申し訳ないと思うほどハマってくれたよね」と私を高評価した。
以上のような経緯でオタク度なら私の方が濃いと自負していたのだが、先日それが違うと判明した。
その夜は「友達が二人家に来るから」と聞いていた。
私は「どうぞ、私が存在することなど忘れてお好きなように」と伝えた。
一緒にゲームでもするの?と聞けば、返答は想像だにしなかったものだった。
「たまに三人で集まって3Dプリンタで作ったフィギュアに着色するんだ」
ほう。
詳しく聞くと、フィギュアはすでに3Dプリンターを持っている友人の一人が印刷してきているので、あとは皆で黙々と着色作業をするだけらしい。
なんだそれ。
全然楽しくなさそうだぞ。
「へぇ〜」と、興味のない話題にはうってつけの返事をした。意図的にした。
時間より少し遅れて彼の友人はやってきた。
オランダに来てからよく思うことだが、日本のオタクはガリガリヒョロヒョロだが、こちらのオタクは一見オタクと判別がつかない。
お召しになっているTシャツも限定グッズではなさそうだし、カバンも中学生の頃から更新していない、ではなくいたって普通のリュックだった。
海外だから限定グッズに課金する習慣がないのか・・・とよく分からない理論でまとめた。
私が部屋に篭り読書をしていると、彼らのいるリビングから初めこそ話し声が聞こえたが、徐々に音が少なくなってきた。
といったところで、ヒーリングミュージックが聞こえてきた。
まるで森の中にいるような爽やかな音楽だ。
なんでやねん。
そういえば、「着色しているときはリラックスする音楽をかけて終始無言で行う」と言っていたっけ。
何が楽しいんだ。
ぺちゃくちゃ喋って情報交換が楽しい女の性では、あまりにも理解し難いオタクどものパジャマパーティーだった。
トイレに行った帰り、私はここにいる全員がお腹を痛めて産んだ息子のように感じられた。
集中し切った大人の姿は少し可愛げがあった。
あれはオタクどもの禅かもしれない。