【オランダの病院で働いている 26】
オランダ、敷地内で迷子になる自信のある大学病院で働く日記。
同僚に金髪と茶髪が程よく混じった顔の整った青年がいる。スタインだ。
スタインは職場に二人いるし、私が知っているサッカー選手にも同名が二人いる。
そのくらいオランダの男性の名前でポピュラーなのがスタインである。
そんな量産型ネーム:スタインだが、職場のスタインには他の追随を許さない特徴がある。
サボり癖だ。
職場では7:30、8:30、9:30、11:30と始業時間が持ち場によって異なる。1時間ごとに「おはよう」のラッシュが来るのでちょっと面白い。
始業時間が異なると休憩時間も異なるわけだ。
その日、私は誰も休憩してはいけないはずの時間に昼飯を買うスタインを目撃した。
昼の12時だ。
ランチタイム真っ只中である。
食器洗いチームも、キッチンチームも、レジ打ち(私)も忙しい。
誰も休憩になんていけない多忙な時間に、スタインはまるでここに通う大学生のように”本日のランチ”の列に並んでいた。
”本日のランチ”、トーストと目玉焼きセット食べるんだ。
あれ美味しそうだもんな、私もカフェで見つけたら頼んじゃう。分かるわぁ。オランダ語でuitsmijterって言うんだけどね。
私は”本日のランチ”を受け取れるカウンターから最も近いレジに座っていたので、もれなくレジに来るのは”本日のランチ”を手に取ったお客さんだ。
レジ打ちが単純だからこのレジを狙って座っているのである。
それがなんと、サボる同僚を目撃する羽目になってしまった。
間違えて私のレジに並ばないかな、とちらちら様子を伺っていたが、いつの間にかスタインがいなくなっていた。チッ。
そういえば先週、スタインが昼のピークの時間に見当たらなくなったことがあったっけ。
こいつ、普通にランチ休憩に行ってるからいなかったのか。
理由に見当がついたのであとは私がチクるだけである。
堂々とサボるスタインだが、彼は「次からはこうするといいよ」と掃除の仕方を年上の後輩である私にしっかり教えてくれたこともある。
指摘しにくいことだったかもしれないが、しっかりと伝えることを鑑みると、仕事はできるのだ。
仕事はできるけどサボり癖のあるスタインは、私に”本日のランチサボり”を目撃された日に喋りかけてきた。
私の10分間の小休憩中だった。
「おーい。寝るなよ〜」
私がうつむき加減でスマホをいじっていたので眠そうに見えたのだろう。
スタインは自分がふっと微笑むだけでその辺の雑魚女性のハートに矢を放てることを知らない。あうっなんか刺さった。
ハツに刺さった矢を抜きながら「黙って通り過ぎればいいのに喋ってもイケメンなんだよな」と感じた。
いや、それでも私はチクる。本日のランチサボりをチクるんだ。
多分、きっと。絶対。いつか。