【オランダの病院で働いている 31】
オランダのA棟からD棟まである巨大病院で働く日記。
たまに発生する揉め事。
本日その”たま”が発生してしまったので、もう一件の揉め事と共に紹介しよう。
ウクライナ出身のマリナ(37歳)とマケドニア出身のディマスカ(60代)は口を聞かない。
そのことに気付いたのは、彼女たちが口論になっていたからだ。
ディマスカ「あんた忙しないのよ!自分のペースでやらせてよ!」
マリナ「私は時間があるから食器を渡せって言ってるだけじゃん!」
いつからそういう仲になったのかは定かではないが、ディマスカはどうもマリナのせっかちなところが苦手だと言っていた。
確かにマリナはあっちに行ったりこっちに行ったりと落ち着きがない。
とはいえ、暇を潰しているわけではなくきちんと仕事しているので優秀な従業員である。
一方ディマスカもこの職場に勤めて20年選手なので、分からないことなどないはずだ。彼女は動作は遅いが流れるように仕事をする。
ちゃきちゃきとゆっくり。
タイプが違うが、二人とも仕事熱心には間違いない。
そんな対立の他に、今日は新しい口論を目撃してしまった。
チームリーダーのクリフテン(40歳)とイルケ(推定50代)に歯向かっていたのはサム(この職場に勤めて20年)だ。
サムは勤めて長いことがそうさせるのか、よくチームリーダーの指示よりも自分のルールを優先する。
今日もそうだった。
イルケ「ここにこんな置き方するなつってんの!」
サム「あぁ?」
もうすでに上司に対する口の聞き方ではない。
イルケ「この時間はこの持ち場、一人なんだからこんな雑な置き方しないで!」
サム「時間がなかったからそうしたんだよ!」
「なんで時間なかったの?30分もあったでしょ!?」
「エレベーターがなかなか来なかったから台車運べなかったんだよ!なぁりんちゃん!?」
呼ぶな。一番呼ばれたくない局面で名前を呼ぶな。
私「まぁそうだけど」
数分前にサムと共に事務所へ台車を運んだのだが、エレベーターの一基が止まっており5分くらいロスしたのは事実だった。
事実だが、この問題児の肩をあまり持ちたくはない。見るからに負け試合である。敗戦投手になりたくはない。
私だって先ほどコップのトレイを”この置き方だと嫌だなぁ”と思いながらサムに指示されて渋々雑に放置したのだから。
イルケとサムの口論に、その場にいたヤミナと私は肩をすくめた。
二人とも声がデカいので近所迷惑である。そこにクリフテンも加わった。
クリフテンは元々、サムに対して少し当たりがきついところがあるなと感じていた。
おそらく私が勤める前に何か亀裂の入る出来事があったのだろう。
イルケとサムが喧嘩になっているのだから、無論彼はイルケに応戦する。
クリフテン「この置き方すんなつってるだけだろ!聞けよ!」
サム「いや、俺はそう置くね。だってよくこの時間そこら辺でゴルカが突っ立ってるじゃないか。やらせりゃいいんだよ!」
イルケ「今日は彼女はいねぇんだよ!」
サム「いなくてもそうするね!」
埒が開かないとはこのことである。
私はレジに行かなければならなかったので、そっと現場を後にした。
クビにすればいいだけでは、と思うだろうがオランダでは会社都合で人員削減するには、その従業員の3ヶ月分の給料を手切れ金として支払わなければならない。
3ヶ月分だったか、慰謝料のようなもっとまとまった金額だったか、聞き齧った情報なので定かではない。
確かなのは、日本のように企業側にダメージゼロといったように雇い主に有利な社会ではないことだ。
野球の野次くらい大きな口論を聞きながら、私は思った。
サム、ネタを提供してくれるのはありがたいけれども天変地異が起きて他の部署に移ってくれないかな。