【オランダの病院で働いている 30】
オランダにて、配達員が来ると敷地内をしきりにキョロキョロするくらい巨大な大学病院で働く日記。
「なんでみんな汚くなるのか分かんないわ〜」
高笑いしながら掃除していたので私はケチをつけることにした。
”今日はブロッコリーがないじゃん!”
アレキサンダーという中国の両親を持つオランダ生まれの同僚がいる。
見た目は前髪が少し寂しくなってきている20代の中国系。
オランダで生まれ育っているのでオランダ語がペラペラだ。
アレキサンダーのような華僑はオランダにたくさんいるのでもう慣れた。特筆すべきことは何もない、と言いたいところだがアレキサンダーが他の華僑と違うなと感じたところは、英語も流暢なことである。
オランダに住むとなると、オランダ語さえ話せれば生活に全く困らないので、英語が流暢でない移民は多い。
私の近所にも両親共に中国出身のお子さんがいるが、彼はオランダ語と中国語だけ話せる。
アレキサンダーとよく会話するようになったのは彼が間食用に餅を持ってきていたことだった。
中にカスタードの入った小さな餅だった。
「見てこれ。母さんが作ってくれたの」
まんまるい餅を見せびらかすだけ見せびらかしてくれなかったことを一生恨んでやる。
じゃなかった、ころころしていて美味しそうな手作り餅だったので印象に残っている。
「餅いいよね〜。お母さんに今度は私の分もよろしく言っておいてね」
私は遠慮せずに要望を伝えた。
その夢はまだ叶っていないので、おこぼれに授かれればまた紹介したい。
今日はアレクサンダーが患者の夕飯準備に入っていた。
準備が終わった冷蔵室を掃除しに行くと、声をかけられた。
「今日俺が野菜を盛ったから、なるべく綺麗にするよう心がけたよ」
「そうなの?」
「いつもあっちこっちに野菜が落ちてるじゃん」
「落ちてるねぇ」
「なるべく散らかさないようにした。見てめっちゃ綺麗じゃない?」
私は早速野菜エリアを見に行った。
「綺麗すぎて気持ち悪い」
言わないでおいた。
実は綺麗好きだった同僚に嫌われてなんの意味があるのだ。
野菜の盛り付けは、ベルトコンベアで流れてくるお皿の上に蒸し野菜を乗せるのでぼろぼろこぼれる。
特に人参や、豆はおたまからよく脱走する。
「でも今日はブロッコリーがなかったでしょ?」
「なかったよ」
「じゃあできるよ。ブロッコリーが一番難しいもん」
「ブロッコリーがあってもこれくらい綺麗にできる自信があります」
生意気な。こいつこんなに小癪だったか。
黙れよ、とは言わず、ほくそ笑みながら二人で掃除をした。