【オランダの病院で働いている 3】
オランダ最大級の病院の食堂で働く日記。
「まずはイタリアまで車で突っ切って、アルバニアに行って、マケドニアにも行く予定なんだ。行ったことないから想像つかないよ」
昼休憩の際、同僚が座るテーブルから楽しそうなバケーションの計画が聞こえてきた。
喋っているのはベアー。オランダ語でも英語でもクマという名前の青年だ。
「なんで動物と同じ名前なの?」「ネグレクト?」「クマってオランダ語で特別な意味があるの?」
とは、初対面の際に気後れして聞けなかったが実際のところクマのぬいぐるみのように愛されキャラである。
どのくらい愛されキャラかと言うと、彼の好きなフットボールクラブはアヤックスだと職場の男性全員が回答できるほどだ。愛されキャラというよりは彼はおしゃべりであることの説明になってしまった。
触るとふわふわしているとか書けばよかったかもしれないが、まだ触ったことがないので不明だ。
「どれくらい行くの?」
「6週間くらいかな」
「「「ふぅー」」」
その場にいた5人全員が口をとんがらせた。
3月頃から職場は「バケーションに行くなら早めに申請してね。みんなの時期が被るようなら派遣会社に多めに人を頼まないといけないから」とリーダーたちが口酸っぱく忠告している。
バケーションはオランダの社会人版夏休みといったところで、最低4週間、最長6週間くらいが平均のバケーション取得日数だ。
私も今年は4週間のバケーションを申請した。
ベアーは母親と、途中から友人も合流するそうで長めのバケーションを取るらしい。
ベアー「マケドニアって物価どれくらい?」
マケドニア出身のズヴェッタが答える。
ズヴェッタ「すんごく安い。あんたが行く国、全部安いから心配しなくていいよ」
これはオランダあるあるで、オランダはEUの中でも指折りの物価の高い国なので、東へ行けば行くほど、南へ降りれば降りるほど、物価が安くなり豪遊できる傾向にある。
ベアーの計画を聞いた私は「オランダ人がよくやる物価安い国への長期滞在だな」とつまらない打算的なことを考えた。
いつからこんなケチくさい発想が真っ先に出てくる守銭奴になったのだろう。
オランダだ。オランダに来てからだ。諸悪の根源物価高め。私の心が貧しいわけではない、はずだ。
中国人の女性、ジトンが口を挟んだ。
「私バケーションなら日本に行きたいなぁ」
まさかの方向から槍が飛んできた。真正面から心臓に深く刺さって抜けない。
「綺麗だもん」
私「買い物するの?」
浅ましい銭ゲバ(私の通り名)は聞いた。
「ううん、買い物は中国でもできるし、とにかく色々観たいな」
円安を嗅ぎつけていない純粋な憧れからくる”綺麗なものが見たい”にグッときた。
綺麗なもの、一緒に観に行こうかな。