【オランダの病院で働いてるけど医者じゃない:1】
オランダの病院で働く私の日記。
彼女は休憩中必ず誰かと一緒に座りたがる。この職場一のおしゃべりなのだから当然のことだ。
彼女ことズヴェッタは今日も私と同じ丸テーブルに腰掛けて早々、口にした。
「私今日から四日間泣きたい気分」
はい?なんで?
「生理前になると気分が落ち込むの、それがぴったり四日間でさ」
この話の発端は私が今朝、突然月経になったことにある。
一番歳の近いマリナに「ねぇピリオドになっちゃった」とこぼすと「ピリオドって何?」と聞かれた。生理期間のことであるがマリナは2年前に英語を勉強し始めたばかりなので伝わらなかったようだ。
すかさず画像フォルダにある生理用品の写真を見せた。
オランダには粘着力が強すぎるなど、使い勝手の悪い生理用品がそこそこあるので、私は気に入った生理用品を次も買えるように写真を撮ってお気に入りに登録しているのだ。
問題はそこではない、私は突然のことに生理用品を持ってきていなかったのだ。
マリナは生理用品の写真を見て秒で理解し「それならズヴェッタにも聞いてみなよ」と明るく言った。
ズヴェッタはマケドニア人だ。
同郷のゴルカとマケドニア語で談笑していた。
マケドニア語はスラブ系の言語で・・・とここで言語の解説を始めても自分でも何を書いているか分からないようなGoogle検索のコピペになってしまうので控えよう。
マケドニア語は私には全て「グルルルルヴァルルルル」に聞こえる言語だ。このくらいの解説で十分だろう。
ズヴェッタ「ベルルルルルヴァヴヴヴヴ」
ゴルカ「グルルルルヴァナナナナ」
私「ごめん、どっちか生理用品持ってない?」
私はマリナの時と同じように写真も見せた。
ゴルカ「なんて?」
ズヴェッタ「ああ、ヴェルルルヴァヌヌヌ」
ズヴェッタはマケドニア語でゴルカに伝えてくれた。
ズヴェッタ「ナプキンないかってさ。ごめん私持ってきてないや。あんたは生理終わってるでしょ?」
ゴルカ「とっくに終わってるわ!」
私はゴルカが何歳か知らなかったが、私の三倍くらいある胴回りは冬でも暖かそうだなと常日頃から思っていた。今も恐ろしくて何歳か聞けていない。
年齢を聞いたら最後「教えてあげる代わりにあんたの年齢と交換だね!」と呪文のようなマケドニア語で本物の呪文を唱えて私の年齢を奪ってしまいそうなのである。
私「とっくに終わってたの?」
ゴルカ「3年前くらいから来なくなったね」
私「ただただ羨ましい」
ゴルカ「ゼーヘラにも聞いてみなよ」
私「ありがとう!聞いてみる」
ゴルカ「ゼーヘラはあっち!」
全く逆方向に歩み出した私に大声でゴルカが叫んだ。彼女は喋ると言うより叫ぶの方がしっくり来る喋り方をする。
私「ゼーヘラ・・・」
モーゼスと話していたゼーヘラの肩を人差し指でちょんと叩き振り向かせる。ゼーヘラはこの職場で唯一私より身長の低いモロッコ人だ。
私「これ持ってない?」
ゼーヘラは英語を話さないのでオランダ語で生理を知らない私は写真を見せた。
ゼーヘラ「あるよ」
物分かりのいいゼーヘラは私がまだ「一個ちょうだい」と言っていないのにさっさとロッカールームへ歩み出した。
私「神様!」
ゼーヘラは苦笑している。
ゴルカ「あったって?」
私「あった!」
ロッカーに着くと「2個でいい?」「全然足りる」「ほんとに?何時まで?「18時。今度からはロッカーにストックしとく」「それがいいよ」とナプキンをありがたく頂戴した。
ナプキンの貸し借りは学生時代によくあった。
トイレから出てくるなり先に用を足した友人に「最悪。なってたんだけど。持ってきてないわ」「あるよ」とすぐさまポーチからナプキンを出してくれる友人の心強さったらなかった。
なんだか学生時代に戻ったみたいで、ハプニングではあったが心が暖かくなった出来事だった。