【オランダの病院で働いている 11】
先日、休憩時間中にいつものようにレストランの円卓に腰掛けていた。
先に座っていたのは先月から働き出したジトンだ。
彼女は華僑で、彼女自体は1代目だが夫が2代目の華僑らしい。
華僑の家系のことを1代目2代目と呼ぶのが正しいのかまだはっきりしていない。
二人とも見た目は中国人であるが夫の方は長くオランダに住んでいて、オランダ語がペラペラ。
彼女はオランダ語を絶賛勉強中とのこと。英語が流暢なので会話はもっぱら英語でしている。
ジトンのお子さんが、最近やっと保育園に通える年齢になったので久しぶりに働き始めたそうだ。
私は仲良くなりたかった上に事実なので「日本食より中華料理の方が好き」と伝えた。
麻婆春雨とか、麻婆豆腐とか、と私が逐一検索して永谷園の商品を見せると、彼女は「ああ、XXね。これはXXXだ!」とナチュラルすぎて聞き取れない中国語で返してくれた。
「そんなものは中華料理ではない」と言われることも想定していたので胸を撫で下ろした。
カリフォルニアロールは寿司ではない。インサイドアウトだとか言って新しい流派みたいにいうな。
好きなレストランはパンケーキ屋さんだという彼女に美味しいお店を教えてもらったこともある。
私もオランダの薄いパンケーキは具がたくさん食べられて大好きなので気が合うなと感じていた。
そんな折、改めてジトンは信用できる同僚だと感じた出来事があった。
それは私が派遣先から「給料を間違えて2回振り込んでしまったので一回分返金して欲しい」と連絡が来た時のことだった。
100ユーロ程度であったが、一度もらったお金を返金するのは底知れぬ理不尽さを感じた。
まるで白くてかわいらしいふわふわのうさぎを、「うちのうさぎ、たくさん子供が生まれたから1匹もらってよ」と言われて浮かれ気分でもらいに行ったのに、散々触った後の帰り際に「やっぱりなし。触ってる時デュへデュへ言っててキモかったから」と目の前で扉を閉められるようなものである。
殺生な。私の本性を見たな。
しかしながら、2週にわたり振り込まれた給料を「なんか先週と全く同じ額じゃないか?」と不審に思っていたことも事実である。
私はジトンの横で「今から嫌だけど誤送金を送金し返すわ」と言った。アポロ11号に乗り込む宇宙飛行士のような表情だったと思う。
「え?なんとかインチキしてパクれないの?」
ジトン、君はとても素敵な女性だね。
私はその日からジトンの前でかっこつけるのをやめた。
これからは屁が出る時は「おなら出そう」と宣言してから音の鳴る屁をするし、音のない屁が出そうな時も「すかしっぺするわ」とのたまいたい。
ジトンならストレートに「くっさ!」「やめろし!」と言ってくれそうだからだ。