【オランダの病院で働いている 24】
オランダの猫の手も借りたいくらい忙しいはずの巨大病院で人材が足りているのでのんびり働く日記。
「バケツ!!」
一度マシンが動きだすと、作業場の一体は騒がしくなる。そのため、大声を出さないと言いたいことが伝わらないことが多々ある。
結局私なりの大声は伝わらずリーダーが私に近づいてきた。
私の働く食器片付け部門(通称R&O)では、ディナーの片付けが最も忙しい。
ディナーはランチと違い食器の形が三種類ある。
昼間はゴミを取り除くだけで事足りるが、マシンでは洗えない食器が倍近くに増えるからである。
ベルトコンベアで流れていく食器の数々の中からピックアップする食器が格段に増えるので単純に腕が疲れる。
もう一つ難儀なのは、ディナーにナシゴレンが出た時だ。
ナシゴレンはインドネシアを植民地にしていた時の名残で、オランダではポピュラーな料理である。
アジア料理屋に入れば必ずメニューにあるし、なんなら駅ナカのスナックバーでも見かけたことがある。
そのデンハーグの駅ナカのナシゴレンは過去最低のクオリティだったので二度と食べていないが、ともかく人気なのは間違いない。
人気のナシゴレン、R&Oでは不人気である。
付け合わせのピンダソース(ピーナッツソースのこと)がほぼ固形なので、ソースの容器にへばりつきなかなか取れないからである。
食洗機にかけても取れないため、バケツにお湯を張って1日漬けておき、明朝のシフトが食洗機にまとめてかけることになっている。
漬けられるソース容器は軽く100個を越える。
ちゃんと数えたことないから知らんけど。
このバケツの事前準備をよく忘れてしまうのだ。
何故なら、片付けベルトコンベアでソースの容器をピックアップする人が必ずしも今日のメニューを知っているわけではないからだ。
たまに「今日のディナー盛りつけた人いる?」と聞いて「今日はピンダソースたくさん出たからバケツいるよ」と教えてくれる人もいるが、そんなの気の利くモロッコ人のヤミナだけである。
ヤミナ以外はベルトコンベアが作動してから「あ、バケツ用意しておくべきだった」と気づくのだ。
その日の私もそうだった。
新人だったマケドニア人のズヴェッタが、ピンダソースをピックアップしては置く場所に困っていた。
バケツがないのだから仕方ない。
私は見かねて、少し離れたバケツ置き場の近くにいたリーダーを呼んだ。
「クリフテン!!バケツちょうだい!!」
力の限り叫んだら、慌ててクリフテンが寄ってきた。
「どうしたの!?」
焦った表情だった。
いや、バケツ欲しいだけやねん。
「バケツ欲しい」
「あぁ、バケツかよ」
そうだよ、バケツだよ。
普段小声の奴が大声で叫んだのでピンチだと思ったのかもしれない。
オランダ人のように普段から声を大きくして会話をしようと誓った夜だった。
じゃないとまた「何があったの!?」と誰かに駆けつけられるかもしれない。
「バケツ取って欲しいだけ」