オランダに住んでいる人(30歳・♀)が送る限りなく異世界オランダ日記。
【服のマウンテン】
オランダのひっそりとした知名度の、しっかりとした都市のホステルにて住み込みで働いている。
住み込みスタッフ専用の共有キッチンの話をしよう。
図々しいゲストが「上のリビングは騒がしいから君たちのキッチンで作業していい?」と聞いてきたことがあった。
その時キッチンで勉強をしていた私はめちゃくちゃ嫌だったが、建前を発揮して笑顔で彼を通した。
そのキッチンを見た彼の一言。
「あんたらのキッチン、やばいね」
一人暮らしサイズの冷蔵庫に食材がぎゅうぎゅうにおしくらまんじゅう。
冷蔵庫の扉には、前の住人のメッセージなのか落書きなのか、とにかく前衛的で理解に苦しむ絵が書いてある。
その横には乾燥機だけ置いてある。
洗濯機が何故か現在四階にあるためだ。
その上はカトラリーや電気ポット置き場だが、ネジの箱も置いてある。
私が住むずっとずっと前から置いてある重鎮の雰囲気が漂っているので移動させずそっとしている。
壁には知らない誰かの「ありがとう!ホステル最高!」の手紙が2枚貼ってある。
日に焼けて文字が薄くなっているし、プライベートエリアでホステルの仕事に関して思い出したくないので読んだことはないがきっとそんなようなことが書いてあるのだろう。
12畳はありそうなキッチンの床は灰色で、ところどころもう取れなさそうなシミがついている。
何のシミかは考えたくない。
1番の問題は、シンクのパイプが壊れていて、排水が全て床にスプラッシュマウンテンすることだ。
私が来る前から壊れているらしく、かれこれ三ヶ月未修理だ。
このキッチンに管理者はいない、だが先月までいたナイジェリア人がよくゴミ袋を変えていた。
ゴミ箱は大きいサイズだが、6人暮らしていると一週間で満タンになる。
ゴミ箱があふれるタイミングで毎回新品になっているので、ホステルのアルバイトやオーナーが変えているのかと思っていたが、ナイジェリアの彼は何も文句を言わず変えていた。
彼はこのホステルの影の柱だった。
同じく誰の当番でもないキッチンタオル類の洗濯も彼がやってくれていたのだろう。
シンクの故障によって洗えないため、私が入った時は使った後の食器やコップが机に放置されていた。
一つ上の階のホステル用のキッチンに行くには少し遠い。面倒な気持ちも理解できる。
でも私は次の日の私や誰かにギフトを残して眠りたい。
毎日少しずつ自分の食器と共に洗っていくと、食器はピカピカに。
その代わり新しい汚れたマグカップが翌朝には置かれている。
それもここ一週間はなくなった。
住人が入れ替わったからだろう。
自分で洗わない住人達は、部屋を見つけて出て行ったようだ。
キッチン、そこを綺麗に保つことは「仕事でない」が故に汚くなりがちなエリアだ。
だけど私の幸せは、ここを快適に保つことだ。
今日も誰かの食器を洗う。