オランダに住んでいる人(30歳・♀)が送る限りなく異世界オランダ日記。
【お前か!】
オランダの行ったことはあっても「どんなとこだったっけ?」と聞いてしまうような街のホステルにて住み込みで働いている。
先日、最年少のポルトガルボーイが退職した。
住み込みなので辞めたというよりは退居が一番しっくりくる表現だ。
部屋が見つかったり、ホステルの環境に不都合があれば三日で辞めてしまう学生の中で彼は骨のある少年だった。
母と二人で暮らしていたが、自立したいので出てきたというティーンエイジャーはさすがに違った。
風邪の引き方が規格外だった。
かれこれ3週間は咳き込んでいた上に「ポルトガルから送ってもらう薬待ち」とオランダでは医者に行かなかった。
ゲホゲホゲホ
たまに夜中に飛び起き、廊下でおもっきり咳き込んでいた。
ウェッホベッホゲッホヴウ
私たちのドミトリーの扉はオートロックの錠が閉まる音がうるさいということでタオルを引いて少し開いている状態である。
目の前の廊下で咳き込まれると、ガンガンに咳が聞こえる。
そして彼は隣のキッチンで水を飲むとまた戻ってくるのだった。
そういえば彼は私やアイルランド少女のようにマイボトルを持っていなかった。
蓋のついていないコップはカーペットにシミができると大変なので誰も持ち込まない。暗黙の了解だ。
マイボトルがあれば、夜も水分補給ができて楽だろうに。
そう、彼は少しのお金も出し惜しみする倹約家だった。
ポルトガルボーイがオーナーと「はてそんなに仲良かったっけ?」と思うほど熱い抱擁を交わした別れのその日、
普通にドミトリーで寝ていた。
パニックだ。
なんでまだいるんだ。
翌朝、起きて私は言葉を失った。
ちょうど、彼が大学で同じクラスの女の子を私たちのドミトリーに泊めたときくらいびっくりした。
ポルトガルの「今日で退居する」は、「今週で退居する」という意味なのかもしれない。
翌日、彼は勘の鋭いオーナーに見つかり「あ、そういえば実際はいつ出て行くの?」と聞かれていた。
本当に彼が退去したのは実際の退去日の翌日だった。
さらにその翌日、週末には次のメンバーが来ると知っていたので私は彼が残したシーツをひっぺがした。
このドミトリーには、自分のシーツを片付けないで出て行った人しかいない。
そのシーツは黄ばんで、大変汗臭かった。
これか。
ここ数日のドミトリーの悪臭の原因だった。
ちょうど彼が寝ていた位置が真っ黄色だった。
枕カバーも黄色だった。
きっと毎晩咳で体が熱かったのだろう。
私は彼のシーツを丸めてそのままフロントまで早歩きして、シーツ類をリネンカートにぶち込んだ。
寂しいけれど、部屋が無臭に戻ったからありがたい。
何かいいことをすると、いいことが返ってくる。
オランダでも同じらしい。