オランダワーキングホリデー情報局

オランダでのワーキングホリデー(2021-2022)の情報基地。毎年200人行っているはずなのに全員地球からログアウトしたのか、情報が少ないので立ち上げました。最近はオランダの病院で働くブログ。

【いつかやるとは思っていたことが案外早く起きた話】

オランダに住んでいる人(30歳・♀)が送る限りなく異世界オランダ日記。

 

 

【あんた今どこにいるの!?】

 

オランダの住宅街にて、たまに飛んでくるヘリコプターがうるさいが、そういえば伊丹に行く飛行機がガンガン飛んでくる住宅地に住んでいたのに慣れって恐ろしいなと感じる日々を送っている。

 

先日、オランダに来てから初のまあまあでかいことをやらかした。

 

配達の仕事中に、思いっきりこけたのだ。

 

「あ、このまま行ったらこける」と思った0.2秒後に右側に自転車が傾いていた。

 

ズザザーッとジーンズがアスファルトを擦れる音がした。

 

完全に横倒しになったまま滑っていた。

 

配達には電動自転車を使っている。

 

スピード7段階のうちの6を使っており、速度はマックスに近かった。

 

なかなか止まらなかったが、なんとか頭が橋の柵にぶつかる手前で止まった。

 

そう、橋の上だった。

 

ユトレヒトの街中にかかる数カ所の橋。

 

幅は狭く、橋の上なので街灯が少なかった。

 

私が自転車レーンだと思った道が、歩行者レーンだったのだ。

 

歩行者レーンと自転車レーンには段差がある。

 

その段差を乗り上げられず、見事に横転したわけだ。

 

 

 

 

「助けようかー!?」

 

向かいの自転車レーンから、ニット帽の女性が近づいてきた。

 

私は恥ずかしかったのですぐに起立し、自転車を起こした。

 

「私は大丈夫です!」

 

嘘つけ。

 

恐らく青タンだらけになっているはずだが、そういった痛みは後からやってくるものだ。

 

「自転車見てみようか」

 

彼女は落ち着いていた。

 

自転車大国オランダ、ひょっとしたら何度かこういう場面に遭遇しているのかもしれない。

 

ハンドルが真横に曲がっていた。

 

「やばい、変な方向に曲がってる」

 

私のこの時の顔は、絵文字で言うと😱この表情と瓜二つだった。

 

なんせこの自転車は、私が今日借りたばかりの新品だ。

 

配達用の自転車の高さが合わず、今月から自前の自転車で配達することにしていたのだ。

 

そして今日は、自前の自転車を電動にアップグレードした初日だった。

 

初日にまんまと転けてしまったと言うわけだ。

 

 

「ああ、これは大丈夫。こうやったら元に戻るよ」

 

彼女は慣れた手つきでハンドルを秒で元の位置に戻した。

 

本当に、秒だった。

 

 

「ありがとう!うわー、でも配達の品物がダメだ。」

 

私の自転車の下にはラーメンであったであろう麺とキクラゲが無惨に散らばっていた。

 

転けるとこんなに大胆にこぼれてしまうのか。

 

「どうしよう、これやったことないんだよね。ディスパッチャーに連絡しなきゃ」

 

私はパニックで盛大に独り言を言っていた。

 

ディスパッチャーとは、時間帯責任者だ。

 

もし配達先の住人がドアベルに応答しなかった場合、電話をかけるのはディスパッチャーだ。

 

配達員は住所だけで、お客様の電話番号を知らされていない。

 

また、自転車がパンクしたなどのトラブルの報告に対して応援を手配するのもディスパッチャーだ。

 

報告はアプリのグループチャットで行う。

 

チャットの参加者、つまり配達員はユトレヒトだけで700名弱おり、ユトレヒトが如何に大きな街かが分かる。

 

あれこれ思考を巡らせていると、私は気付いた。

 

私が今運んでいるものは、ハンバーガーだ。

 

中華料理は二つ前の配達だった。

 

つまりこのぶちまけてあるラーメンは、私のものではない。

 

誰かが同じ場所でこけた形跡だった。

 

「これ、私のじゃない!」

 

大声で叫んだ私は彼女の目の前で背負っているバッグを開けた。

 

 

そこには袋に入ったままのハンバーガーと、衝撃に耐えた瓶のコーラが転がっていた。

 

「やった!連絡しなくていい!」

 

「それはよかったね」

 

「あと、あなたがいて良かったわ!自転車直してくれてありがとうね」

 

「いえいえ。じゃあ・・・素敵な夜を!」

 

「あなたもね!」

 

彼女は既に素敵ではないことが起こった私に慣用句を言うか迷っていたが、喋り出した口は止められなかったようだ。

 

配達先まではわずか数分で到着した。

 

明るい玄関でバッグを今一度開けると、ぷんとオニオンドレッシングの香りが漂った。

 

開いている。

 

セットであろうサラダが見事にバッグの中で空中分解していた。

 

プラスチックのカップの中にはほとんどキャベツが残っていなかった。

 

全部、バッグの側面に張り付いていた。

 

よく見ると、ハンバーガーの袋もドレッシングでベトベトだった。

 

到底お届けできる代物ではない。

 

へなへなと地面にへたり込むと、私はただちに玄関から離れねばと気付いた。

 

お客様の中には、配達員を玄関先で待っており、我々のオレンジの服が見えた瞬間にドアを開けてくる方もいる。

 

見つかったらとんでもなく良くないことが起こる。

 

半開きのバッグを半ば引き摺りながら自転車の置いてある位置へ戻った。

 

 

 

サドルがはげた以外に異常がないことし、ゆるやかなスピードでセンターまで帰った。

 

私はセンターで服やバッグなどの配達の一式を借りて出勤している。

 

スタート地点に逆戻りというわけだ。

 

その前に、ディスパッチャーに連絡した。

 

横転したのでハンバーガーは跡形もないこと、バッグを掃除しに戻る旨を伝えた。

 

今夜のディスパッチャーはチャット上で初めて見かける名前だったが、優秀だったようだ。

 

自動で入ってくるオーダーも止めてくれたようで、今のオーダーがキャンセルされても、次のオーダーが現れることはなかった。

 

おかげで私はオニオンのハーモニーをアルコールスプレーで消すことに専念できた。

 

掃除が終わったタイミングで電話が鳴った。

 

知らない番号からだった。

 

 

「ちょっとりんちゃん、こけたって書いてあるけど!今どこにいるの!?」

 

「え、もう戻ってきてるよ」

 

「そうなの!?」

 

「今後ろにいる」

 

 

私はメリーさんではない。

 

電話をくれたのは、センターで何度か見かけたことのある髪の長い女性だった。

 

大きめの黒縁メガネが似合っている。

 

彼女はシフトの管理や、勤務初日の配達員へのレクチャーを行なっている。

 

見かけたことはあるが、彼女との初めての会話だった。

 

「大丈夫!?なんでこけちゃったの?」

 

「暗くて段差に気づかなくて、自転車レーンだと思ってた場所が自転車レーンじゃなかった」

 

「暗いからね。膝は?見た?」

 

「さっき見たけど、左だけ青かった。紫じゃないから大丈夫!」

 

「もう・・・気をつけなね。あと30分あるけど、もうあんた上がんなさい。ディスパッチャーには私から連絡しとくわ」

 

 

 

おかんだった。

 

センターにおかんがいるとは思わなかった。

 

仕事中は基本的に一人だが、手厚いサポートが心強い、いい勤務先だ。

 

色んな人の優しさを感じながらセンターを後にした。

 

全てのトラブルを起こしてこの職場を去る気がしている。