オランダに住んでいる人(30歳・♀)が送る限りなく異世界オランダ日記。
【知ってるキャラしかいない】
オランダの住宅街にて、三日に一回の掃除機でも吸いきれないほこりを、無視することにして心の平穏を保っている。
その日は炭治郎や煉獄さんにも遭遇したので、”ああこれは何らかのオタク向けイベントがあったに違いない”と察することができた。
帰宅して調べてみると、やはりオランダで一番大きな規模のアニメフェスが今年はユトレヒトで二日間開催されていたようだ。
私は思い出した。
このアニメフェスの前日、金曜日。
私は同じく配達の仕事でユトレヒト駅前にいた。
駅前、皆がたむろする丸い椅子の設置された広場がある。
その前に、椅子に座るでもなく柱に背を預け、床にへたり込むような形で彼は佇んでいた。
キャプテン・ジャックスパロウである。
その名を知らない海賊はいないが、その名を知らない読者はいるかもしれない。
説明すると、パイレーツオブカリビアンでジョニーデップが演じた気まぐれな海賊だ。
ジャックは今しがた船から降りたのか、見るからに酩酊もしくはトリップ中であった。
オランダなのでどちらの可能性もある。
本物のジョニーデップよろしく、座っていても分かるほど小柄だった。
髪をだらんと下げて俯いている彼は、まさにジャックに見えた。
ついついご尊顔を拝見したくなるのはコスプレの国に生まれたからであろうか。
私は顔を右側に固定しながら歩き続けた。
どうしても顔が見たいのだ。
ジャックは俯いている顔をパッと上げた。
どうやら酩酊なのではなく、猫背でスマホを操作していたようだった。
顔を上げると、完全なるジャックスパロウがそこにいた。
はっきりとした鼻筋、うっすら引いたアイシャドウ。
瞳がグリーンに見えるが、果たしてジョニーデップが碧眼だったか定かではない。
イケメン。
「仕事前に眼福をありがとうございます」と心の中で祈り、さっさと駅前を後にした。
ご尊顔が期待以上だったところで、特に何も行動は起こさない。
これぞ深夜ラジオを長年聴いている者の習性だ。
その場で行動に起こさず、じっくり観察して後々ネタにするのだ。
果たしてあのジャックはアニメフェスの前夜祭を行う予定だったのだろうか。
それとも、金曜の夜は毎週コスプレをしている方なのだろうか。
今度お会いしたら、ドレッドは地毛なのかをお伺いしたい。