オランダに住んでいる人(30歳・♀)が送る限りなく異世界オランダ日記。
【凪では済まされない】
オランダの都市部にて、自転車の前輪がトラムの線路の溝にハマって盛大にこけそうになったがなんとか持ち堪えた私がお送りする。
私の後ろを張りついていた男性に、溝に溜まっていた雨水を盛大にかけてしまったことが申し訳ない。
その様はまるで、機嫌の悪い馬の後ろ足だった。近寄るな。
さて、先日夕方に知らない番号から電話がかかってきた。
以前、知らない番号からの着信を無視した時は、部屋の内見先のルームメイトだったことがあり(住人に選ばれましたのお知らせだった)
今度からは片っぱしから電話に出よう、と誓った次第だ。
私は部屋にいる時はいつもノートPCを起動し、スマホはPCに繋げて充電している。
PCで作業をしていたので秒で電話を取ると
「りんちゃんだね?」
相手は私の名前を口にした。
誰だ。
この国に来てからまあまあ使う単語だ。
聞くまでもなく、特徴的な鼻にかかった声で思い出した。
ナイジェリア人の元ルームメイトだ。
ホステルで2ヶ月ほど一緒に働いたので、チームメイトとも言える。
元気してたの〜、仕事何してるの〜、そうなんだ新しい仕事見つけたんだね〜。
主に質問に私が答える形式で会話は進んだ。
「じゃ、また連絡とっていこうね!」
彼特有の軽いノリに、あと少しで「オッケーブラザー」と返すところだったが、私はその文化で育っていない。
多分何かの空き時間にかけてきたのだろう。
10分以内に通話は終了した。
懐かしい声に、南部に戻った気がした。
窓の外を見ると、そこには開けた道路があり、夕闇が足早に迫っていた。
駅を電車が通り過ぎる音が聞こえた。
ホステルの自室(6人部屋)から窓を見上げると、スニーカーが見えた。
お行儀よく裏口の前で待っている猫も確認できた。
誰かが勢いよく自転車から降りて、駐輪する音が聞こえた。
見える景色が増えるとは、なんとありがたいのだろう。
オランダに来てから、必要最小限、最短距離で生活することがなくなった。
本当はそうしたいが、出来ないだけだ。
毎日違うことが起こる。それは時にハプニングになるが、それもまた楽しめる。
まだ、凪にならない。