オランダに住んでいる人(30歳・♀)が送る限りなく異世界オランダ日記。
【私を怒らせたことを後悔するがいい】
オランダの都市部に数週間滞在し、今は友人の家に居候している。
さて私は一か月部屋を借りていたが、そこの部屋のオーナーと相性が悪くたった2週間で部屋を出てきた。
ここから先は、人をサンドバッグと勘違いしているオーナーの話なので、気分が良くなる要素が一個もないことをお伝えしておく。
初日、湯船に浸かり終わり、1人部屋でほっこりしていた。
私がここを気に入った理由の一つは湯船があったことだ。
以前住み込みで働いていたホステルに、バスタブのある部屋はなかった。
ましてやプライベートルームもなかった。
一気に二つの宝を手に入れた私は、いよいよオランダを満喫できると胸が高鳴っていた。
明日はどこに行こう。
部屋がノックされたのは、バスルームを出てすぐのことだった。
「滞在はどうですか?」
あら、入居して初の顔合わせなのにようこそもなしか。
訪れたのは同じ家に住む賃貸主、オーナーだった。
「ええ、楽しんでます」
「そうですか、湯船使いました?湯船使ったらね、浴槽も鏡もシャワールームも全部掃除して欲しいんです。床も湿気でベトベトになるから。
あとお風呂使ってるのに部屋の電気がつけっぱなしだったんで、切りました。僕言いましたよね?使ってない部屋の電気は切れって」
ここはまだホステルなのかもしれない。
ホステルの掃除に厳しい鬼オーナーは40代女性だったが、変身して50代男性になったのか。
そういえば、身長が同じくらいだ。
「わかりました」
私はスマホを握りしめ、バスルームに向かい扉を閉めた。
ホステルの掃除の仕方は主に2パターンある。
(1)部屋を締め切って爆音で音楽をかけながらマイペースに仕事をする
(2)イヤホンを耳につっこんで爆音で何かを聞きながらマイペースに仕事をする
私は(1)を選択した。
ありがとう、(1)を教えてくれた仕事仲間のインド人。
君がいなければ怒りで鏡を叩き割るところだった。
掃除をしながら、そういえば以前に下見に来たときのことを思い出していた。
(身分証をコピーしながら)
「パスポートの写真とかなり違いますね」
(手土産を渡したとき)
「意外とちゃんとしてるんですね」
超自然体失礼撒き散らし人間なのかと思っていたが、どうやら違うらしい。
これは嫌がらせだ。
あの時の違和感は、間違っていなかったのだ。
触れるのが遅くなってしまったが、自分よりかなり年上の異性に勝手に部屋に入られたことが気味が悪かった。
単純にきしょい。
悪夢の初日から、浴槽を洗うのは面倒だしシンデレラの気分になってしまうのでシャワーだけを使っていた。
すると翌日、帰宅するや否やオーナー(女性の姿)にバスルームに呼びつけられた。
「ここに石鹸置いたのなんで?」
「そこが石鹸置きだから」
こう答えたかったが、どうやらそこはオーナー様だけが置ける、下々の者には許されざるスペースだったらしい。
「大変失礼致しました」
強めの口調だったので、危うく語尾に「女王陛下」とつけてやたらに敬ってしまうところだった。
そう、この至極居心地の悪い部屋にはオーナーが男女いる。
いつだって奴らはバディだ。
ホステルのみんながしっちゃかめっちゃかにものを置いていたバスルームを懐かしく思いうんざりしながら、部屋に帰った。
この時点で私は、どちらとも仲良くなりたくなくなったので接触をなるたけ避けるようになった。
一か月で800ユーロもするのにこのザマだ。なんて不快なんだろう。
ある日、ペットボトルを洗って共有キッチンに逆さまにして置いておいた。
乾いたらペットボトル用のゴミ箱に入れるつもりだったのだが、
怒りたくなったタイミングで私の行動が目についたのだろう。
パソコンで悠々自適に番組を見ているとオーナー(その行動生態から閣下と呼ぼう)が部屋をノックした。
「これはどうするつもりなの?また使うの?」
閣下は、倒立をしているペットボトルを指さした。
「はぁ、洗って乾かしてたんです」
「洗う必要ないから!ペットボトルはラベルも剥がさなくていいし、そのままゴミ箱に捨てればいいから!邪魔なんだけど!なんでここに置くの?」
まるでペットボトルがキッチンのど真ん中にクリスマスツリーのサイズで仁王立ちしているような言い方だった。
しかし、ペットボトルはシンクの横でひっそりと佇んでいる。
「じゃあ捨ててくださいね!」
そう言いシンクからペットボトルを取ろうとした閣下に「あ、いいです。やりますんで」としっかりコミュ障には定番の"文頭にあ"をつけた返事をした。
さて、このペットボトルは閣下に何かを思い出させたらしい。
「そういえば前にも空き瓶が置いてありましたけど」
「乾かしてました」
「ああいうこともやめてもらえますか?よく分からないんで」
私は貴様の乾かさない精神がよく分からなかったが、いかんせんここはどうやら私の部屋ではないらしいので平謝りするしかなかった。
そう、ここでは私はお客様ではなかったのだ。
たしかに800ユーロも払ったが、扱いは"金のために仕方なく住まわせてあげているから俺らの言うことには全部従ってもらわないと困る"だった。
そう、だから閣下は初日に「ようこそ」と言わなかったのだ。
歓迎する気なんて1ミリもないのだ。
ここから私が閣下にとっては火に油を注いだことで、
私にとっては当然の権利を主張しただけで関係が更に悪化していくが、長くなったので明日にしよう。
最も恐ろしいことは、私が出て行ったことでこの部屋はまた入居できる状態なのだ。
地獄への扉をどうか叩かないでいただきたい。