オランダに住んでいる人(30歳・♀)が送る限りなく異世界オランダ日記。
【脱出成功】
オランダの「んえ?」と地名を二度聞きされる街のホステルにて住み込みで働いていた。
昨日までは。
まだ書くだけで「ああ、辞めたんだな」と思うほど切ないが、私のオランダ滞在の第一フェーズが終わったと言える。
昨日、ホステルのグループチャットに「14時に出るよ」と送信した。
その15分後、ルームメイトとオーナー夫婦、そして2名のレセプションスタッフがロビーに集合していた。
特に仲良しこよしでもなかったスタッフまでいる。
ホステルで働く人は、たまに忙しすぎて不機嫌マックスになることがあるが、なんだかんだ優しい。
それが私が異国でもホステルを職場に選んだ理由の一つだ。
「また来るんだよ!」
その一言に「来れたら来るわ」と返すと、
「こういう時は来る、って言うだけでいいの!」とハイタッチするオランダ人スタッフ。
「じゃ、また明日ね」と手を振るアメリカ人。
「猫が待ってるよ」と微笑むフランス人。
アイルランド少女は「なんで出て行くの〜」といつも通りわがまま、いや素直だった。
「じゃあ引っ越し先まで一緒に行くわ」と言いながら190cmのはるか上空からハグしてくれたポルトガル人。
そこで、最も人柄が出ていたと感じたのはオーナー夫婦の妻の方だ。
「これ!北ブラバントの名産品!」
そう言って手渡されたのはお酒だ。
「メッセージはオランダ語だけで書いといたよ。読めるでしょ?」
"りんちゃんのたった一杯で酔っ払って真っ赤になった顔を忘れない"と書いてあった。
じゃあなんでお酒をプレゼントしたんだ、と思ったがつっこまなかった。
知っている。
ホステルで長く働いた人に手渡される功労賞のようなお酒なのだ。
先週、これを手渡されたのはインド人だった。
それからあっという間に私の番が来てしまった。
「必要なことがあったらいつでも頼ってね。」
彼女は決して「ホステルに戻ってきてね」とは言わなかった。
それが私にとって負担になることを知っている。
それが私にとって前向きな選択でないことを知っている、だから嘘でも言わなかったのだ。
二か月前、辞めたスタッフの住居を世話してやったと聞いた。
今働いているスタッフに知り合いの部屋を紹介しているのを目撃した。
私はもっとこの人を頼るべきだったのだろう。
大丈夫、そのチャンスはまたやってくる。
私はまだオランダで生きていく。