オランダに住んでいる人(30歳・♀)が送る限りなく異世界オランダ日記。
【君たちはどう渡るか?】
私が住み込みで働いているホステルには、インド人のPさんが働いている。
デリーという大都会出身の彼は、私より3週間前にホステルで働き始めたばかりなのに、とても街に馴染んでいる。
訳を聞くと、オランダに来る前はドイツで2年ほど働いていたらしい。
英語もペラペラで、心細そうなゲストに話しかけに行く優しいPさん。
そんな彼の後についていきながら、別棟に清掃に行った時の話だ。
ホステルはドミトリーがメインなのだが、別棟も存在する。
本館からは徒歩15分ほどで、線路沿いの空き地にぽつんとたたずむ一部屋。
ホステルのがやがやした感じは苦手だから、ゆっくりしたいという方に人気だ。
8月はバケーションの季節なので、毎日予約が埋まっている。
つまり、毎日往復30分かけて清掃に行かなければならない。
道中、線路沿いには信号のない交差点がある。
自転車用の信号はあるのだが、歩行者用の信号がないのである。
オランダあるある、道路上で一番優遇されているのは自転車なのだ。
だからといって、駅近くの交差点に歩行者用の信号がないのはいかがなものか?と思うが、Pさんは颯爽と自転車用の信号と共に横断歩道を渡った。
「ここ、信号ないよね!」
私は常々疑問だったことを口にした。
「インドではそもそも信号がなかったから。避けながら渡るの」
「なるほど、そうきたか」
「ドイツに最初に行った頃、ところ構わず渡ってたんだよね」
「え?危なくない?」
「うん、友達に注意された(笑)信号のある場所に行って渡るっていうのに慣れるまで5ヶ月かかった。でもさ、気づいたんだよね」
「何?」
「さっきみたいな横断歩道で、車が過ぎるまで待ってるのって、アジア人なの。タイとかインドとかベトナムでは、道路では車が王様でしょ?」
「そうね、注意してないと轢かれるね」
「ヨーロッパでは人に優先権があるから、堂々と渡っていいんだよ。彼らは停まってくれるよ。」
ヨーロッパでは人に優先権があるのなら、オランダでは自転車に優先権があるように感じる。
彼からの新しい情報に感謝しながら、今日も自転車に轢かれないように注意して道を歩いている。