オランダに住んでいる人(30歳・♀)が送る限りなく異世界オランダ日記。
【傾向と対策】
オランダの都市部にて、セントラルヒーティングを22度にしてもまだ寒いと感じる日常を送っている。
先日、久々にテイクアウトデリバリーの仕事をした。
大きな嵐が立て続けにオランダを襲っていたので、へなちょこライダーの私は勇気が出ず、なかなかシフトに入れなかったのだ。
晴天。
二月に入った時とは打って変わって曇りのない、いい天気だった。
まあまあ暇だった。
そういえば私が最初にシフトに入った時は夜のロックダウンで、夕飯の外食が不可能だったのだ。
要はシフトに入った瞬間からオーダーが休む暇なく入ってきていたのだ。
初日がそのようだったので、それが当たり前だと思っていた。
先日は一つのオーダーが終わると10分ほど次のオーダーが知らされるまで空き時間があった。
たった10分と思うなかれ。
この10分がとても貴重なのだ。
私は”配達完了”のボタンを押して次のオーダーが出現しなかったことを確認し、
住宅街に5つほど並んでいるベンチに向かった。
座れることは配達中にあまりない。
店で待っている時も”配達の人は座らないで”、”配達の人は店の中まで入ってこないで”など、お店によってルールが様々だ。
特に大手チェーン店は席数は多いが、その分お客さんも多いので私たちが座るスペースはない。
壁沿いに、重たい背中のバッグだけ外して、電線に止まるカラスのように行儀良く並んでいるのだ。
さて、私がベンチだと思って向かったものはどデカい植木鉢だったのだが、ヘリが厚かったので無事に椅子を確保した(としておこう)
ありがたいことに、この日はもっと上を行く”座るチャンス”が待っていたのだ。
そのお店は、アボカドバーガーが売りの個人経営のハンバーガー屋さんだった。
ヨーロッパの雰囲気とは違い、アメリカナイズされた店内は家具もこだわっているらしく、オシャレだった。
そのお店は、レジから向かって左半分がお客様用、そして右半分がデリバリー待機場所になっていた。
なんと、店内の50パーセントも私たちが座っていい場所に指定されていたのだ。
まだ肌寒い季節なので店内で待機できるだけでもありがたいのに、椅子も用意してくださっているとは。
私はおどおどしながら腰掛けた。
「やっほ」
後ろから声が聞こえた。
椅子めがけて店内に突入していったので気づかなかったが、私の後ろにもう一人同じ会社のデリバリーがいた。
女性だった。
女性は、私が出勤する夕方の時間帯ではあまり見かけない。
全体の1割といったところだろうか。
「ここの店最高なのよ」
その口ぶりはひょっとしてデリバリーじゃなくて常連さんかな、と思ったが彼女は続けた。
「ここでゆっくり待てるでしょ。しかもお客さんと分離されてる。最高じゃない?」
マジ最高っす、あざます先輩!
と言いそうになったが、この赤髪の少女が作った制度ではなさそうなので止めておいた。
「そうね、私も入った時に”やった座れるじゃん!”って思ったよ」
彼女は満足そうににっこり微笑むと、手元のスマホに視線を落とした。
ひょっとしたら彼女は色んなレストランで座れるように交渉しているのかもしれない。
ともあれ、お店の方の気遣いはありがたいことこの上ない。
今日も足より尻の痛みを感じながら出勤予定だ。