オランダに住んでいる人(30歳・♀)が送る限りなく異世界オランダ日記。
【感情を預ける】
オランダに住んでから出会った人のおかげで、生きることが少しラクになった。
その考えをくれたのは、私が3ヶ月住み込みで働いていたホステルの同僚のインド人だ。
彼は「人生は、何を聞いたかじゃなく何を話したかだよ」と豪語していた。
自らで体現するが如く、マシンガントークだった。
私は、自分の話より相手の話をたくさん聞くことが楽しいので、そこには同意しかねたがしかし、彼は私を生きやすくしてくれる素敵な言葉もくれた。
「それは君の仕事じゃないから気にしなくていいよ」
例えば、仕事終わりにレセプションから”本当はルーム8も清掃する日だった”と言われた時。
例えば、ゴミコンテナにゴミ袋が山積みで新しいゴミ袋を入れられない時。
例えば、レイトチェックアウトなのに伝聞ミスでお部屋を開けてしまった時。
これらの仕事は清掃の仕事ではなくレセプションの仕事だったので、自分のせいにしないことが彼のスタイルだった。
言われていないけれど目につくことをやってしまう私を見つけると必ずこう言うのだった。
「それは君の仕事じゃないから置いときな」
誰もやらないなら自分がやるしかない、そう思って生きてきた私の心はグラムではなくキロ単位で軽くなったものだ。
本日、そんな教えを説いてくれた彼を思い出した。
今はホステルを抜け出し、3人でシェアハウスに住んでいるのだが、同居人の一人であるベトナム人の女の子が私の部屋をノックしたのだ。
彼女はたまに私の部屋をノックして話しかけに来る。
「キッチンって使ってる?」
私は食事も洗い物も終えていたので「いいや」と答えた。
「じゃあ、鍋を洗って欲しいんだけど」
鍋は揚げ物をした後だったので、新聞紙で油を吸っているところだった。
「もうちょっと置けば油を吸ってくれると思うんだけど」
「ああ、そうなの。」
彼女は少し不服といった表情で頷いた。
「それさ、私の鍋だから今度から使うときは声かけて欲しいな」
なんと。
共有スペースに置いてあるので、てっきり前の住人の置き土産だと勘違いしていた。
私はその鍋を使うのが初めてではなかった。
なんなら、彼女と喋りながらお互いに料理をしていた際にも使っていた。
以前の私なら、こう感じただろう。
申し訳ないな、明日ケーキでも買ってプレゼントしよう。
しかし今の私はこうだ。
”最初に言うべきだった。それが彼女の仕事だった。”
私は何も気にしなくていい、それは前に仕事をしなかった彼女の責任なのだ。
生きていくために必要なのはお金で、強く生きていくために必要なのは考え方だった。
ありがとう、インドの同僚よ。