オランダに住んでいる人(30歳・♀)が送る限りなく異世界オランダ日記。
【そこにもう一人います】
オランダの都市部にて、毎日美味しいランチを食べて順調にウエイトを増やしている。
今借りている家は、住居登録ができる。
私は既に住居登録なしで4か月過ごしてきたので、このまま登録しないでも何も問題なさそうだなと感じていたのだが、
何事も初めての経験は好きだ。
有事に備えて役所に行ってきた。
今回はその登録に行った時の話だ。
入口にある機械で自分の生年月日や予約時間を入力したが、該当のデータがないと表示された。
お役所の受付は年中無休で不機嫌なのが定説なので、私はご機嫌を伺うべく恐る恐る受付に向かい尋ねた。
「予約がないって言われちゃったんだけど」
「予約がなかったの?お名前は?」
「りんちゃんと申します。」
「あら。」
ドキドキする間が空いた。
「あー、えーっと、実はもうりんちゃんが来てるの。そこに座ってる彼女。」
ついに私は英語が分からなくなってしまったのだろうか?
今彼女は、あなたはもう既に来たよと言わなかったか。
私は、振り返ったらドッペルゲンガーがいて秒で死んでしまうと思ったが、ついつい彼女の指差す方を見てしまった。
見ちゃダメだ!
そこには私と同じ女性で、身長160cmほどの、中肉中背の、しかし切長のおめめで長髪と、私と全く似ていない若者が座っていた。
ドッペルゲンガーではなかったのでひとまず死は逃れた。
「彼女の名前が聞き取れなくて。りんちゃんに似てたから通しちゃった!ちょっとー、あなたこっちに戻ってきて」
呼ばれた私のドッペルゲンガーは困惑と言った表情で受付にやってきた。
そりゃそうだ、さっき済ませた受付に呼び戻されるのだから。
「もう一回あなたの名前を教えてくれない?あ、番号札はりんちゃんに渡して。はい、あなたは済んだからソファで待ってたらいいわ〜」
私のドッペルゲンガーのおかげで私は、数分早く来ていたことになった。
ラッキーだ。
彼女は相当難しい名前らしく何分か受付で格闘していたが、問題なく番号札をもらっていた。
「あなたはもう既に来てるの」
人は困難に遭遇した時無の表情になるとは本当だった。
私は「は?」とも「なんて?」とも返さず真顔で穴が開くほど受付の彼女を見つめてしまった。
"This is a pen."のように、もう使う機会のない文だと願いたい。