オランダに住んでいる人(30歳・♀)が送る限りなく異世界オランダ日記。
【RUN!!!!!】
私が住み込みで働くホステルの主なお客様は学生だ。
理由は悲しくなるほど単純で、9月の新学期までに部屋を借りることが出来なかったのだ。
準備不足というよりは、部屋不足。
私の住む街ティルブルフは公園や自然がたくさんあって住みやすいとされている。
実際のところ緑は多いがマンションが少ない。
大阪の住宅密集地(聞こえのいい呼び方はベッドタウン)出身の私は、窓を開ければ隣接するマンションが四つ数えられたが、
ここティルブルフでは、ホステルの窓を開けても確認できるのは一軒のマンションだけだ。
マンションの他には、木が鬱蒼と茂ったマンションと同じくらい広い公園が確認できる。
さて、学生が多いとホステルはどうなるか。
毎朝信じられない量のケンタッキーやマクドの紙袋が部屋のゴミ箱から出てくる他は、
自転車置き場が大混雑する。
元々自転車大国オランダ。さらに学生となれば所持率は100パーだ。
駐輪場は通るのもやっとなほど混雑している。
ホステルから大学まで電車で一駅だが、全員バス代も電車代も惜しみ片道20分の自転車登校が主流だ。
先日、最上階で清掃をしていると、
吹き抜けになっている一階からオーナーの大声が聞こえてきた。
「みんな!!!!自転車!!!!逃げて!!!!」
走ってエントランスに向かうオーナーに、10名ほどの学生が付いていった。全員速い。
ブロンド、茶色、黒色、色とりどりの頭がエントランスに向かっていった。
私は、同じく仕事中のインド人と顔を見合わせた。
文章は理解できたが、状況が理解出来ない。
事の発端は、レセプションスタッフがエントランス付近の防犯カメラにオレンジの服を着た人を見つけたことから始まる。
分かりやすい蛍光オレンジの服は、
「オーナー!!!自転車回収されてる!!!!!」
路上駐輪の回収だ。
ティルブルフでは道端に路上駐輪すると25ユーロの罰金だ。
その上、日本のように市が管轄しているわけではないので、市内で回収にあっても取りに行くのは隣の市になる。
これを、ポールにチェーンをかけて防ごうもんなら、チェーンは真っ二つに割られる。
お察しの通り弁償はしてもらえない。
恐らくそのまま道端にあるゴミ箱に捨てられるのだろう。
オランダでは自分の借りている建物の前であろうと、路上に駐輪したいのなら別件で契約が必要だ。
そういえば、ホステルだけでなく他の店の前にも従業員の自転車が停まっていない。
なんて面倒なルールなのだろう。
これくらい厳しくしないと道が自転車で溢れかえってしまうのだろう。もしくは、溢れかえっていたのだろう。
というわけで2台は寸手で回収を免れたが、5台も回収にあってしまった。
「おかしい!私契約したのに!」
どこかに電話をかけるオーナー。
「契約って何?」と私。
「駐輪するのにお金がいるの?これぞオランダだね」とインド人。
「私の自転車が!」とレセプションのオランダ人。
私はオーナーのシンプルな言葉
「GUYS!!!BIKE!!!!RUN!!!!」の威力を思い知った。
だって、10人は走っていったのに、停めていたのは7人ほどだったのだから。