オランダに住んでいる人(31歳・♀)が送る限りなく異世界オランダ日記。
【一番体力的にきている時期】
オランダの住宅街にて、かなり後悔をしている。
昨日私は、オランダに来て史上最悪のというか、ここ数年でも例を見ないくらい派手に転けた。
デリバリー中ではなく、私生活でチャリに乗っている時のことだった。
その日はハンドルに白い箱をぶら下げていた。
自分のカバンを入れる箱が欲しく、数週間悩んでいてやっと見つけたしっくりくるものだ。
予兆はあった。
組み立て前の箱が左膝に当たり、ハンドルが左右に傾いた。
その時は持ち直したが、対面を通り過ぎた同じくチャリのお兄さんは私の箱を迷惑そうに見ていた。
箱をハンドルの中央に持っていき、風の抵抗を受けないように左手で押さえながら運転した。
カーブに差し掛かったところで、ハンドルに左手を戻した。
それがいけなかった。
箱は秒で平面に戻り、膝に激突した。
思いっきり右にすっころんだ。
前回の青タンが治ったところでまただ。
その前回は、街中の橋の上で転び、恥ずかしくてすぐに立ったが、今回は痛みでしばらく動けなかった。
左の掌を思い切り石畳の上に擦り付けてしまった。
ぽたぽた果汁のようにしたたる血を見ていると、かなり前に私を追い越していたスクーターのお姉さんが戻ってきてくれた。
「すごい音がしたから見にきたよ!どうしたの!?」
こけたのだ。
「スピード出てたもん」
電動自転車だからだ。
お姉さんにチャリを起こしてもらい、曲がったハンドルを直してもらい、お礼を言った。
「ありがとうイタタタタタタタ」
一度立ち去ろうとしたお姉さんだが、あまりにも私が呻くのでスクーターに乗って振り向きこう提案してくれた。
「なんかいるものある?家近いから取りに帰れるよ」
神なのだろうか?
ここは遠慮せず甘えることにした。
私は皮膚がめくれてゾンビのような左手を洗いたかったので、”水が欲しい”とそれこそゾンビのように口にした。
「水持ってくるわ」
お姉さんは数分後、満タンの1リットルのペットボトルと共に大きなガーゼも持ってきてくれた。
口を濯ぎ、手を洗った後で申し訳ないのと、この重さの水を持って帰られる自信がなかったのでお姉さんに手渡した。
私はお姉さんを待っている間に自分のシャツを脱ぎ、ぐるぐるに巻いてしまっていた。
「シャツ巻いたのなら、これはいらないわね」
お姉さんは新品のガーゼをスクーターの椅子に戻した。
ほんのちょっぴりお姉さんがガーゼを持ってきてくれていないかなと期待はしていたが、まさか新品を二個も持ってきてくれるとは思わず、咄嗟の判断を呪った。
123%、ガーゼを待つべきだった。
お姉さんに別れを言い、私はえっちらおっちら先程のスピードとは打って変わってのろのろと帰路に着いた。
押すことしかできなくなった自転車は、右手だけで押すにはあまりにも重い。
よく見るとダウンの左側、生地が切れて、綿が出てきている。
帰宅し、先月から共に住んでいる新しい同居人に事の顛末を話した。
友人はオランダに住んで長い。
「僕も昔やったよ」「オランダの自転車道路は走る人には優しいけど、転けた人には優しくないから」「ダウンが破けるのもあるるだからあんまり気にしないで」
など、さまざまなアドバイスをしてくれた。
その中でも印象に残っているのはこれだ。
「今度転ける時は手は守って、ヒジから転けるんだよ」
もう転けることが決まっているのか。
私は「はい・・・」と静かに首を垂れた。
「手から転けない、これはオランダでは小さい頃に習うんだけどね。まぁりんちゃんは一年目だから今から覚えてね」