オランダに住んでいる人(31歳・♀)が送る限りなく異世界オランダ日記。
【年を重ねた】
オランダの住宅街にて、降り積もる雪を見て絶叫した今朝だ。
先日、31歳になった。
濱中選手に夢中だった10代の頃はまさか自分が31になるなんて思ってもみなかった。
そう、私は野球観戦も好きだった。
今でこそアヤックス(サッカークラブ)に夢中だが、それまではサッカーなんて微塵も興味がなかった。
阪神が開幕6連敗という情報を聞きつけたので、今日はそんな阪神について書こう。
思い出深い観戦が二つある。
一つは、後ろの会社員4名が泥酔して私のお気に入りのピンクとブラウンのカバンにビールを思いっきりひっかけたこと。
フチにフリルのついた、ペットボトルも入るちょうどいいサイズだったカバンは、一瞬にしてビールまみれになった。
もちろん帰宅してもビールの匂いは消えない。
試合結果よりも、即座にそのバッグがお気に入りから外れたことを覚えている。
あの頃の甲子園は2003年にリーグ優勝する前、つまり球団側からするとお金がどっと入ってくる前だった。
2003年以降に改装されてからは通路が二倍の広さになり、座席もビールホルダーが追加されるなど「阪神もやっとファンのことを考えるようになってくれたか」と胸を撫で下ろす変革がもたらされた。
さて、優勝マネー獲得以前の座席は、捉えられた宇宙人が座るサイズだった。
到底、大人の座れる間隔ではなかったのだ。
私が母とよく好んで選んでいたアルプススタンド(内野席)は球場の中でも一番間隔が狭い座席だとされていた。
30席ほど、深緑色の冷たいプラスチックの座席がつなげられている。
隣の席との間には、プラスチックの上に描かれた溝しかない。
そう、実質的な感覚がないのだ。
だから真ん中の席に座りビールを注文しようものなら、一番端の席の人まで現金をリレーする形式になる。
そして、橋の席の人はビールを中程までリレーし返すのだ。
呑み助が真ん中に座っていようものなら、3回目のビールリレーの際に「お前何回頼むねん」と途中から呆れることもしばしあった。
関西人もしくは阪神ファンの驚くべきところは本人に向かって「お前何回頼むねん」と直接ものを言うところだが、まぁ本気で怒っているわけではないので文句も会話の種の一つだ。
さて、もう一つの印象的な試合はしょうもないファンへの対処法だ。
その日私は母と弟と、ライトスタンドに座っていた。
そこは熱狂的な阪神ファン集う場所とされている。
サッカーで言うとゴール裏だ。
甲子園の近くに家を買ったり、頭から爪先まで全身黄色と黒で固めてくるファンはこの辺りに生息にしていることが多い。
ご存じとは思うが、7回裏の攻撃の前にジェット風船を飛ばす習慣がある。
何度観てもこの色とりどりの風船で染まったスタンドは壮観だ。
私は折りたたみ式の携帯を片手に写真を心ゆくまで撮影した。
すると、風船を飛ばし攻撃に入ったタイミングでライトスタンドの上の方から口の縛られたジェット風船が落ちてきた。
タイミングをずらして飛ばし、目立とうとするファンはよく見かける。
しかし、口を縛った風船に”XXのちんこ”と黒いサインペンで書かれたジェット風船は初めて見た。
なんて下品なんだ。
印象的だったのは、その選手名はライバルのジャイアンツの選手であり、今私達が観に来ているのはベイスターズの試合なのだ。
全然関係がない。
驚いて閉口していると、二列前の白髪で日に焼けたおじさんがスッと立ちちんこジェット風船を掴んだ。
おじさんはちんこジェット風船を思いっきり足で踏んづけると、風船は一瞬で空気になった。
そしておじさんは、風船が落ちてきた上の座席を一瞥した。
擬音にすると”キッ”と音がするような鋭い視線だった。
”アホなことをするな”
おじさんは何も口にしなかったが、確実に怒っているのが見てとれた。
満員のスタンド、誰もが無視を決め込んだちんこジェット風船を木っ端微塵にしたおじさんは、かっこよかった。
阪神の帽子を被っていなかったけれど、ハッピもメガホンも身につけていなかったけれど、おじさんは私にとって阪神ファンの鑑だ。