【オランダの病院で働く日記 77】
いいキャラしてんなぁ、と同僚に対して思ったことがある。
その日は小児病棟勤務だった。
最近はバケーションでいつも朝番の人がクロージングに入っていたりとイレギュラーが多い。
その日もいつもは朝番のセリー(モロッコ人♀)とクロージング担当だった。
30度を超えるオランダでも暑い日。
私は休憩中に「アイス食ってやろう」と思いつきレジにアイスを持って行った。
セリーは私を見るや否や「いいからいいから!持ってけ!」とレジ付近から私を追い払う仕草をした。
「いいよ。払うよ」
これがお昼ご飯とかならまかないとして分かるのだが、アイスクリームだ。完全におやつだ。
おやつをまかないにしてもらうのはなんだか気が引けた。
「いいの!召し上がれ〜」
「じゃあお言葉に甘えるね。ありがとう」
建前なんかすぐ折れた。
アイスでも2ユーロくらいするのでありがたかった。
その後、セリーと2人きりでクロージングをしていた。
私「あとはそこのゴミ箱を空にしたらおしまいかな?」
セリー「ゴミ箱?」
「ほらあそこの」
「え?どこ」
私は角にあるゴミ箱までセリーを連れて行った。
「うっそ。これシェフが片付けるやつよ」
「ああ、忘れちゃったのかな」
「いいわほっとこう」
「ほっとくの!?」
「だってシェフの仕事だもん。私たち関係ないから上がろう」
私たちクロージングだから関係あると思うけどな?
口答えをぐっと飲み込んで、まぁ手間が減ったしいいかと帰り支度に向かった。
セリーの前でかっこつけは不要だ。
私は更衣室から外に声をかけた。
「セリー!終わった?」
「うん終わった帰る帰る。は?」
「あ?」
「イヤホンの接続が切れた」
セリーはワイヤレスイヤホンをしていた。
「え?私のスマホどこ?」
知らん。
知らんけど、何故かこの職場ではスマホをポケットにしまわずテーブルに置いて作業をする人が一定数いらっしゃるので「スマホどこ?」は割合聞かれる質問でもある。
答えはいつも同じだ。
知らん。
私「ここら辺で作業してたよね」
そうとも、私はお人よしである。
セリー「あった!!キッチンにあった!!」
あったんかい。
よかった。せっかく30分まいて終わったのだからさっさと帰ろう。帰って餃子食べたい。
セリー「そういえばアイス余ってたからあげる」
「え。悪いよ。さっきも食べちゃったし。アイスは1日一個って」
「二個あるから!つべこべ言わず受け取りなさい!」
アイスは1日一個って決めているのだが、セリーに建前とかっこつけと遠慮はいらないらしい。
”牧場仕込みいちごアイス”
牧場っていちごも栽培してたんだ。なんだこのアイス。
でもさっき買うか迷ったアイスだからラッキー。
2人で戸締りをして喋りながら出口に向かっていると、セリーがぴたりと立ち止まった。
「イヤホン切れたんだけど」
「どういうk」
「あぁ!スマホがない!」
「先帰ってて!」
「じゃあね!」
台風のようなセリー。
いいキャラだなぁ。
スマホショルダーを買ったほうがいいと思う。