【オランダの病院で働く日記 76】
好き嫌いの話はいつでも盛り上がるものである。
マーク「じゃあ君は今日のベジタブルクイーンだね」
「そういうこと」
その日私は入院患者用の食材を盛るポーショネーリングと呼ばれる作業で難関の野菜を担当し、見事ノーミスだったのだ。ノーミスは相当難しい。
ポーショネーリングでミスをするのはたいてい肉と野菜担当だからだ。
「王冠を授けましょう」
「やったーありがとう〜!」
マークは自分の頭から王冠を外す仕草をした。見えない王冠だ。
「ブロッコリーで出来た王冠だよ」
「それっぽいな」
「キャロットとかも刺さってるよ」
「きゅうり以外でお願いします」
「きゅうり嫌いなの?」
「むちゃくちゃ嫌い」
「なんで。あんなのほぼ水じゃん」
これは私がきゅうりが苦手だと自己申告すると必ずと言っていいほど返される言葉である。
君も言ったことはないだろうか。
「美味しいのに〜」
給食が始まった頃から苦手だからあいつらとは交渉決裂して20年以上経つのに!
なぜ改善策を提示しようとしてくる!
黙らっしゃい!
きゅうりが嫌いと申告すると、”やさい入国管理官”の反応は3種類に分かれる。
「ほぼ水だよ?」
成分分析型。
「じゃあスイカも嫌い?」
金田一型。
「私も嫌い」という同調型はこの30年で1人か2人くらいしか会ったことがないので、相当レアである。
なんでみんなあんな青臭いものを食べられるのだろう。
オランダ人はオープンな性格なのできゅうりが嫌いと人目を憚らず言える人が日本よりは増えると予想していたのだが、現実は厳しい。全然いなかった。みんな野菜大好きだった。
その日は新入りのカムゼ(モロッコ人)とも好き嫌いの話になった。
「私パタット(フライドポテト)が嫌いなんだよね」
え?今なんて?聞き間違いか?
フライドポテトが嫌いな人に今まで会ったことがない。
あれはポテトというよりはポテトにかこつけた油と塩の塊なので人類皆好きな味だと思っていた。
そうか、私(a.k.a. きゅうり嫌い)に会った人ってみんなこういう気持ちだったのか。
そりゃ「あれ水だぜ?」って言いたくなるわな。
油だもん。フライドポテト。
「まじか。脂っこい?」
「そうだね。っていうか味が一緒で途中で飽きてくる。誰かが食べてたらちょっとは食べるけど自分から注文することはないな」
飽きる!
食べ物に関して斬新な視点である。
今度カムゼにはふりかけを紹介しようと思っている。フライドポテトにも合うのではないか。
あ、いけない。
何故だろう私も改善策を提示したくて仕方がない。
どうも止められない性のようだ。
のりしおとかイケるかもよ。