【オランダの病院で働く日記 66】
今日が勤務初日の少年に
「それじゃ綺麗になってないでしょ?こっちでホースで洗って」
とホースまで誘導しようとすると言われた。
「知ってるよ」
はあ?
てめぇ初日だろ!
知ってることなんて一個もねぇだろ!
黙って「はいはい」ってはい二回言ってもいいからついてこいや!
そんなことがあるのは稀で、職場の同僚である少年たちは皆気さくだ。
先日はイボォーという最も発音しにくい同僚と会話をしていた。
Ewから始まる名前なのでまじで発音しにくい。
一回も名前を読んだことがないのは名前を覚えていないのではなく発音しにくいからだと言ったら子犬のような目で見られそうなのでまだ言っていない。
イボォーはプリングルスのおじさんのようにまあまあ長い髭を蓄えた21歳だ。
イボォー「最近パートナーとはどう?」
「まぁぼちぼち」
「でもパートナーのためにオランダに来たんでしょ。めっちゃ好きじゃん」
「時々ね」
「まぁ一緒に住むってそういうことだよな」
21歳、随分達観している。
「彼女いるの?」
「いるよ〜。もう3年くらい付き合ってるかな」
「ん!?長いね。あれ?いくつだったっけ?」
「21」
「そうだよねぇ。18歳から付き合ってるってすごいね」
「お互いのことは14歳から知ってるよ」
「え!?」
幼馴染。
引越しと転校を繰り返した私には漫画の中でしか触れ合うことのできない単語『幼馴染』
その幼馴染と恋仲になった漫画の主人公のような青年がイボォーだったとは。
家は隣同士なのだろうか。
お互いの部屋を屋根伝いに行き来していたのだろうか。
お互いのことを意識するあまりカーテンをちょっと開けてはこっそり覗き見していたのだろうか。
地元の花火大会に誘いたいけどなんか小っ恥ずかしいから友達グループで行くことにしたのだろうか。
花火の終盤、迷子になったふりをして他の友達を撒いたのだろうか。
ひゅるる。
どかん!
私の妄想大爆発。
同級生とも連絡が途絶えているまさに転勤族の子供の私は、幼馴染にいささか憧れを抱きすぎている節がある。
ええやん、幼馴染。
ええやん、親同士が仲良し。
そんなん一個もない人生やったわ。
イボォーは恋バナをしてくれると判明したので今後もウザがられない程度に彼女とのウハウハの話を聞きたい。
ウハウハって。