オランダワーキングホリデー情報局

オランダワーキングホリデーの情報基地。毎年200人行っているはずなのに全員地球からログアウトしたのか、情報が少ないので立ち上げました。最近はオランダの病院で働くブログ。

【同僚にイライラを授ける才能の持ち主ズヴェッタまとめ】

【オランダの病院で働いている 50】

 

オランダの病院で働く日記。

 

ズヴェッタとの出会いは最悪だった。

 

彼女はマケドニア出身の50代の主婦。国に夫とティーンエイジャーの子供二人を置いて出稼ぎに来た。

 

その日私は彼女の金髪と茶髪の混じった髪の毛をしげしげと眺めていた。

 

「元が金髪の人って年取ったら色が抜けて茶髪とか白髪になるって聞いたことあるけど、ズヴェッタはちょうど中間だなぁ。今からゆるやかに茶髪になっ・・・ごめんなんて?」

 

「給料いくらもらってる?」

 

出会い頭に金の話。私の心の扉がピシャッと閉まる音が聞こえた。

 

 

 

嘘でも「あなたってどこ出身?おいくつなの?いきなり年齢のことを聞いてごめんあそばせ?」とか私ならジャブを打つところだが、彼女にはそれがないらしい。

 

「シフトがまちまちだから、週によって違うよ」

 

「週払いなの?」

 

「あなたも派遣会社から来てるでしょ?派遣のアプリから月払いか週払いか変えられるよ」

 

「そうだっけ」

 

彼女が何年派遣会社に登録しているかは知らないが、メガネを持ち上げてスマホを遠ざける動作をしたあたり、アプリにあまり明るくないのかなと感じた。

 

覗き込んだスマホの文字はiPhoneで最も大きなフォントサイズだった。あら。ババアの予感。『新しい同僚はババアでした。』読みたくない連載だな。

 

 

別の日に、私は食堂のテーブルで杉下右京のように優雅に紅茶を楽しんでいた。

 

私の紅茶はポットではなくグラスに入ったショットで一気飲みできる量しか入っていない。

 

いつの間にか隣にいたズヴェッタはしげしげとスマホを眺めていた。今度は写真だ。

 

「息子。こないだ学校を卒業したの。これ卒業式の写真」

 

聞いていないのに教えてくれた。

 

私は前回印象的だった彼女のスマホの文字の大きさを確かめようとしていただけなのに、写真に興味を持ったと勘違いされたようだった。私はそこまで人間らしくはない。

 

「スーツ似合ってるネェ。オーダーメイドみたいヨォ。この緑色好きだワァ」

 

思ってもないことを口にしたので罰として語尾が昭和少女漫画になってしまった。

 

「じゃ私行くね」

 

昼休憩は短い。

 

私はさっさと持ち場に戻った。

 

すると次の休憩で眉を八の字にしたズヴェッタがいた。

 

「どうして休憩が10分までって教えてくれなかったの」

 

どうしてもこうしても、彼女の持ち場は25分から開始なのでそれまでに持ち場に行っていればいいのだ。私の持ち場は10分までだった。

 

まぁ、彼女の持ち場も公式的には10分までに休憩を切り上げて他の作業場を手伝うことになっているが、それをやっているのは私とヤミナくらいで、他のヨーロッパ育ちの大人どもはのらりくらりとやってきて手伝ったり手伝わなかったりする。

 

てんで自分の評価を上げることに興味がない。

 

彼女もそっちの”ヨーロッパ特有時間にルーズな見ていてイライラする温室育ち”だと思ったから置いていったのだ。

 

それに、写真を見せる前に「私25分まで休憩するわ」と言ったのは彼女本人なのだ。

 

「どうしてって・・・」

 

言うことがその場その場で変わる気分屋に呆気に取られていると、彼女はプリプリしたままどこかに行った。よかった。どっか行ってくれって思ってたんだよ。

 

 

ズヴェッタは腹立つエピソード量産型同僚なので、あと二つお付き合い頂きたい。

 

なんだかその発音しにくい名前にもイライラしてきた。変換しても一発で出ないんだよ。

 

ある日、彼女がスマホで会話をしながら休憩しにやってきた。

 

仲良くない私のテーブルに腰掛けることもいつものことなのでもう慣れた。あと200個くらいテーブルがあるのになぜここに座るのかなんて愚問である。なんか知ってる平たい顔がいる、それだけだ。

 

彼女は顎で自分の手元のコーヒーと砂糖をしゃくった。

 

あ?なんだテメェやんのか?

 

「手が塞がってるからコーヒーに砂糖入れてくんない?」

 

お?やる気か。こちとらいつでもお前の顔に熱々のコーヒーぶっかけられるぞ。なんせ手が塞がってないからな!!

 

「は?それくらい自分で入れなよ」

 

眉を顰めて返事した。無視しても良かったくらいなのに。詰めが甘い。だからいつもテストで90点代だった。頭はいいんかい。

 

唇をすぼめて彼女は黙ってスティックシュガーの封を開けた。手ふさがってないやんけ。ハンズフリー通話にしろや。ハンズフリー知らんのやろな。今度教えたるわ。いや教えるか!

 

 

その日は運悪く彼女と同じ持ち場だったので、共に締め作業の清掃をしていた。

 

締めは一番最後の作業だが、全ての食洗機を洗浄しなくてはいけないので、一番体力がいる。

 

私はやっと終わった締めの締めくくりとしてゴミ箱三つにゴミ袋をかけようとしていた。

 

目の前にズヴェッタが現れた。天敵発見。たたかう?にげる?ごみぶくろにいれる?

 

「ん」

 

私はトトロのカンタよろしくゴミ袋の一つを差し出した。

 

ボーッと突っ立ってるならお前の作業でもあるんだから手伝え。

 

じゃないとモンスターボールぶつけて一生出れなくしてやるぞ。

 

「触れないよぉ。私もう手洗ったもん」

 

「あ?ゴミ袋は新品だよ?」

 

「でもゴミ袋じゃん。手が汚くなっちゃうから嫌だ」

 

・・・

 

たたかう

 

どうぐ

 

▶︎ごみぶくろにいれる

 

にげる

 

・・・

 

たたかう

 

どうぐ

 

ごみぶくろにいれる

 

▶︎にげる

 

・・・

 

相手はボケッと突っ立ってるモンスターだった。

 

まだピカチュウの方が話通じるじゃん。逃げよう。もう一生同じ持ち場につきたくない。