【オランダの病院で働く日記 73】
土日に働くと、食堂利用者が少なく開店休業に近い状態になる。
余った時間で何をするかというと、我々はどこかを熱心に掃除するような日本人的精神を持ち合わせていないので、だらりとテラス席に腰掛け喋りながら時間をゆるく過ごす。
その日は40代に見えないクリフテンがリーダーだった。
クリフテンが40代に見えないところはそのまるまると太ったお腹もしかり、顔にも肉がついているので20代のようなハリがあるのだ。
パンパンのそのハリで私は彼が29歳くらいなのだと最初の数ヶ月勘違いしていた。
免許証を見せられるまで私はからかわれているのだと信じて疑わなかったくらいパンパンである。
新喜劇で言うと口笛の烏川さんくらいの体型だ。
人の脂肪のことを堂々と”肉”などと表現していいのか迷ったが、どうせ読まれることはないので肉としておく。私はフワちゃんではない。誰も魚拓を取らない。
クリフテン「キツネの靴下なの?」
私「そうだよ。こっちがしっぽの柄でこっちがキツネ」
「見たら分かるけど」
「何?」
「なんでそんなの履くのかなって」
かわいいからに決まっているではないか。
私は気づいたら柄物のシャツやレギンスを買ってしまうので無地のものはかなり意識して買っている。
でないと全身柄物の大阪のおばちゃんが誕生してしまうからだ。
「柄が入ってた方が可愛いじゃん!」
そう言って私はその場にいるフェルジリオ(男)、ヒューゴ(男)、クリフテン(男)の足元を見た。
皆一様に黒い靴下だった。
私「つまんね!」
クリフテン「シンプルでいいだろ」
「味気ない!」
私にとって靴下は好きなものがプリントされているべきものであり、無地のものなんてもう何年持っていないか分からなかった。
「お前さてはさ、パンツとかもそういう柄だろ」
「は?」
何故知っている。
私は6月にEUROに向けてオレンジかつオランダの国旗が入ったド派手なパンツを買った。
あの時はお祭り気分を盛り上げるために買ったのだが、ひょっとしたら普通に好きな柄だから手にとっていたのかもしれない。
今となっては分からない。
分かることといえば私がプリント柄が好きと言うことだけだ。
「これ私のパンツ」
件のオレンジの国旗柄のパンツの写真(自宅のテーブルで広げている写真)を見せると、クリフテンはを顔で覆った。
童貞には刺激が強かったのかもしれない。
「かわいいでしょ?」
「これでキングズデーとか楽しむわけね」
週2回は履いている。
日常的に履いているとは口が裂けても言えなかった。