【オランダの病院で働く日記 69】
「テクノ聴くの!?」
音楽を止めた後だった、あまりにもキラキラした笑顔で聞かれた。
場所は小児病棟のキッチン。
その日のシェフは週一回に合うか合わないかのセルビア人の女性だった。名前忘れちった、ごめん。
私はフラストレーションが溜まる出来事があり、ムカムカしていたので電気グルーヴを爆音で流しながら食器を洗っていた。
MAN HUMANと小さく口ずさむことも忘れず。
これを一発でテクノと言いあてるあなたは相当な音楽好きだな・・・。
私は感心しながら言った。
「聴くよ!よく通勤中に聞いてる」
今日はさっきイライラすることがあったから聞いた、とは言わずにおいた。
この優しい名称未設定シェフは”私に原因があるの?”と聞いてきそうだったからだ。
そうではないから教えたくない。
「ひょっとしてクラブとかも行く?」
「あーそれは行ったことがないかも」
電気はフジロックとサマソニで観たことはあったが、彼女が意味するのはそう言うフェスではないだろう。
「そうなんだぁ。私はたまにクラブに踊りに行くよ」
「すげぇ」
さすがはいつもロッカールームで念入りに髪の毛を整えているオシャレなシェフだ。
心配しなくてもくるくるの髪の毛は今日もくるくるだ。
シェフなのに若干香水臭いのもそういうことだったのか。
モル(スペイン人)に名称未設定シェフが
「あいつが入った後は冷蔵庫がとんでもなく散らかっている」と言われていたのはそういうことだったのか。
絶対に走ってはいけないとされているキッチンで度々小走りになっているのもそういうことだったのか。
クラブに踊りに行く人だからだ!
私は恐らく”クラブに踊りに行く人”に偏見がある。
仕事よりオシャレを気にしそうな人々だ、という偏見がある。
電気の話をし忘れてしまったので私は今度電気の話と、シェフの好きなテクノについて聴く予定だ。あと名前も聞かねばならぬ。
その頃までには”クラブに踊りに行く人”への偏見を少しばかり減らしておきたい。