オランダに住んでいる人(31歳・♀)が送る限りなく異世界オランダ日記。
【Aダッシュ連打】
オランダの住宅街にて、私の通勤ルートが教習車の通り道になっているので毎回邪魔な配達員を演じる日々を送っている。
先日、デリバリーの仕事中に九死に一生を得た。
それは私たちライダーが最もよく行くお店にいる最中に起こった。
マクドナルド。
ランチもディナーも、とにかくこの街の人々はマクドを注文する。
感心なのは意外とサラダの注文が多いことだ。
揚げ物を食べる罪悪感、サラダはそれを帳消しにする要因なのだろう。
その日は”この人が入っていれば注文がサクサク出来上がる”という人がカウンターで働いていた。
私はカウンターで注文番号を伝え、「もう出来てるよ」とこのマクドでは言われたことのないセリフを言われた。
仕事のできる店員さんにますます好感を持った瞬間だった。
体感3秒で店を出た後、それは発生した。
私の前を一人の中華系の女性がきょろきょろしているのが目に入った。
エプロンをしているのでどこかの従業員なのだろう。
彼女は私を見つけると駆け足で近づいてきた。
なんだ。
「あんたのチャリ!」
彼女が指差す方を見れば、今まさに私のチャリが”路上駐輪”で持ち去られようとしていた。
私は走るのがめちゃくちゃ遅い。
クラスでも5本指に入るほど遅かった。
それでもメロスは走るしかなかった。
すでに黄色いテープの貼られたおそらく罰金的な詳細が書いてあるタグを見て見ぬふりをして青いベストの悪魔に伺った。
「これ持ってっていい?」
青いベストを身につけた青い目の悪魔は「いいけど、ここは本来停めたらダメだからね」とつぶやいた。
彼は周囲の同僚に「彼女は仕事中だから見逃すことにします」と伝えた。
悪魔なのに意外と優しいではないか。
私はパニックだったので「はい、次から。はいはい次から。」と言いながらその場を去った。
まだ1時間しか働いていないのに、危うく【(悲報)今日の仕事終了のお知らせ】を受け取るところだった。
私はその足で先ほどの「あんたのチャリ!」の女性が佇む店に向かった。
彼女はネイルサロンの従業員だった。
「あなたはマジで今日の私を救ってくれたわ、ありがとう」と伝えると、笑いながら「いいのよ〜」と言ってくれた。
恐らくこの店にいると撤去悪魔の到着が毎度見えるのだろう。
周辺のマクドやサンドイッチ屋さんから出てくるライダーに適当に声をかけているのかもしれない。
もしくは、「なんか中華系っぽい子がせかせか働いてるわ」と日頃から目に留まっていたのかもしれない。
撤去悪魔に遭ってしまったが、啓示天使がいたので楽しい1日だった。