オランダに住んでいる人(30歳・♀)が送る限りなく異世界オランダ日記。
【そんなに早く反応できないのよ】
今日は気分がいいので、見た目で何かが損なわれた気がする話を書こう。
気分がいい時こそ、マイナスな感情の話をしてもプラスのパワーで帳消しになるからちょうどいいのだ。
私は以前、ラスベガスに訪れたことがある。
父の出張に金魚のフンのようについていったので、20を越えていながら航空券も滞在日も父持ちの夢のような旅行だった。
言っておくが会社の金ではない。そこまで腐っていない。
いや、私は腐っているが父は腐っていない。
ただ、虫のいい旅行を娘に許すような父だ。
娘にデロ甘である。
「日中は何してるの?」
「電車の切符はこう買うんだよ」
全部に
「連れてきてもらっといてなんだがなんでスケジュールまで把握されねばならんのだ、貴様が仕事の間、吾輩は好きに街ブラする!困ったことがあったらGoogleに聞くわ!」
まるで反抗期真っ只中の返事をしたくなる手厚い父なのだった。
私は中学高校と、英語だけしか点数が伸びない奇病にかかっていたので、ある程度の英語は話せる。
しかしそれは、見た目では分からない。
これは父と共に夕飯の後、マジシャンのショーを観に行った際に起きた。
マジックだけではなくお客さんをステージに上げて会話でたくみに笑いを誘う、この道10年以上の、どプロのステージだった。
「じゃあ次は誰に手伝ってもらうかな」
ぐるりと場内を見渡す、奇抜なドラゴンの帽子を被ったマジシャン。
火花が散りそうなほど、思いっきり目が合った。
彼はわずか2秒の間に判断したのだろう。
「多分、この子は話せない」
私は目立つことが大好きなので、当てられなかったことがショックだった。
”きっと話せない”と視線を外されたことがショックだった。
今すぐ「おいこのレイシスト!」と大声を上げてステージ目指してドカドカ歩いていきたい気持ちだったが、そういう目立ち方は嫌いなので背中を丸めた。
これが先日、オランダでも起こった。
「27番!」
昼間、バーガーキングでテイクアウトが出来上がるのを待っていた。
私は自分が囚人番号27番と知っていながら、違ったら恥ずかしいのでもう一度レシートに目をやった。
これは石橋を叩いて渡る私には欠かせない動作だ。
その間に店員さんはこう言ったのだ。
「27番!」
日本語で書くと何も変わらない。
彼女は英語で言い直したのだ。
どっちも分かる、むしろここで「アールシュチー(27)」と中国語で呼ばれたらカウンターを乗り越えて厨房にづかづかと入っていくところだった。
「おい見た目で判断すんな!」と喚きながら、全然出なさそうな商品を片っ端からフライヤーに突き落としていくところだった。
あとで君達で仲良く食べればいい。
私は日本語で話しかけてくる相手に「お上手ですね」と言わないようにしている。
勉強してるから当たり前だろ、何年日本に住んでいると思ってるんだ、親が日本人なんで、と言いたいのをグッと堪えて「ありがとうございます」なんて言わせたくないからだ。
黒い髪で、真っ黒な瞳の人には「お上手ですね」なんて言うだろうか。
言わないだろう、だからだ。
どこにも平等は落ちていない。
自ずから作るしかない。
私の世界の平等は、言葉の上手い下手なんて置いておいて、「そのシャツかわいいね」から始まる。