オランダに住んでいる人(30歳・♀)が送る限りなく異世界オランダ日記。
【NOT MY DAY FOREVER】
オランダで初対面の人の家に転がり込むという離れ技をやってのけた割に、トイレ以外で起きなかった私がお送りする。
先日、私はマクドナルドに行った。
日本にいるときは店内に入るなり「前回いつ来たっけ」と、ふとよぎった疑問に永遠に答えが出ずに終わったものだったが、
オランダに来てからは週に一回は行っている。
一つ、オランダ国内でしか見たことがないマエストロカードではなくVISAカードが使えること。
二つ、サラダがなかなか美味しいこと。
三つ、電源がありWi-Fiが飛んでいること。
カッコつけて二つ目にサラダなんぞ書いたが、要はブログを書いたりラジオを聞いたりと趣味を謳歌するにはちょうどいい環境なのだ。
その日は初めて行った街だったが、Googleマップに「近くの美味しいお店は?」と聞かず道すがらにあったマクドナルドへ一目散に入った。
入店時、ワクチン接種証明のQRコードを提示した。
他のお店だと一人の店員さんが入り口に張り付いてチェックしていることが多いが、ここは一人の女性が担当しており、暇になるとテーブル席に座ったり同僚に話しかけたり、チェック以外のことにも忙しそうだった。
店を出ようとしたところでトイレを借りた。
知らなかっただろうが私は女性なので女性トイレの個室に入った。
あら、紙がない。
トイレ自体は数時間前に掃除した後があるのに、上にあるはずの予備もない。
隣の個室に入った。
紙がない。
予備もない、っていうか芯もない。
私は一瞬で男性になり、男性用トイレを開けようとした。
が、透明なガラス越しに見えた。個室には誰かが入っている。
仕方なく私は地下から上に上がり、クソ忙しそうな厨房の手が開くのを待っていた。
30秒で忍びなくなり、厨房ではなく入り口でQRコードをチェックしている彼女に話しかけに行った。
「トイレに紙がないよ」
「QRコード持ってる?」
「はい?」
「QRコード」
「持ってるけどもう注文したし食べ終わったよ」
私はレシートを手に答えた。
さっき捨てないでいて良かった。
「QRコードがないとダメ」
「なんで」
百歩譲ってQRコードを提示したとしよう、それで彼女がトイレットペーパーを補充してくれるようには思えなかった。
私はさっさと厨房に戻ろうとした。
「待って」
「なに?」
「QRコードがないと中に入れられない」
目の前の女性は人間型ロボットなのかとまじまじと見つめてしまった。
ううん、とても精巧にできている。目の輝きなんか人間そのものだ。
さっき入ったお客を覚えていないのは分かる、昼時だし忙しかっただろう。
しかしレシートを見た上で何故QRコードがいるのだろう。
減るものではないが、納得いかない気持ちでQRコードを再び彼女に提示した。
「じゃ、トイレットペーパーは厨房のベストを着た人に聞いてね」
そうなると思っていた。
しかし、誰に聞いたらいいかまで教えてくれたのはラッキーだった。
「どの人?」
「あの青年!」
彼女は一番手前で商品を詰めている青年を指さした。
QRコード以外も喋れるんかい。
てっきり話が通じていないのかと思っていたが、普通にコミュニケーション取れるんかい。
もやもやしながら厨房に向かい、無事にバックヤードの鍵を手にした店員さんを手に入れた。
トイレのすぐ横にあるストレージを開けた店員さんはそのまま帰ろうとした。
私「トイレットペーパー入れるところも開けてくれない?」
「いいわ〜」
手を振りながら店員さんは帰っていった。
いいんかい。
トイレットペーパーが出しっぱなしだから、パクられて芯ごといなくなるのではないか。
知らん街の、知らんマクドナルド。
知らんレギュレーション。
もう知らん。